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Maison BeaulieuMAISON BEAULIEUAB ÉDITIONS · フランス料理と欧州歴史記録の出版館
裁判とスキャンダル · イングランド

広場の長持

一七二二年、バルセロナならびにロンドン。アイルランド出身の陸軍少尉ジェームズ・キャリック(通称ヴァレンタイン)は、色恋の罠に落ちたことを皮切りに、やがて追剥や辻強盗の闇へと転落していった。リンカーンズ・イン・フィールズ近傍で駕籠を襲撃したのち、共犯のモロニーとともに捕らえられ、タイバーンの絞首台へと散った男の軌跡。

軍曹が夜警の足並みを大広場に進めていたとき、ふと耳朶を打つ物音に気付き、蓋の開かれた二つの長持の前に歩み寄った。一方には、猿轡を噛まされ全身を縛り上げられた我が上官、ジェームズ・キャリック少尉が横たわっており、もう一方には、あだめく逢引へと彼を誘ったスペイン人の友が転がされていた。数時間前、二人は瀟洒な邸宅へと足を踏み入れたはずであった。しかし床板が突如として足下から抜け落ち、落ちた先で凶賊どもに身ぐるみを剥がされ、キャリックに至っては上着の金モールまでも毟り取られたのである。この奇怪な挿話こそ、のちに追剥へと身を落とすアイルランド人少尉の、波乱に満ちた生涯の幕開けであった。

通称をヴァレンタインとも呼ばれたジェームズ・キャリックは、ダブリン近郊に居を構えるアイルランド貴種のもとに、次男として生を受けた。父の手配によりスペイン遠征軍の少尉の地位を買い与えられ、潤沢な手当をも受けて任地に赴いた。若き士官は軍営にあっても俸給をはるかに超える豪奢を誇り、その天幕には風流を好む士官らが集い、軍が冬営に入ればその装いにも暮らしぶりにもいささかの不足もなかった。十全たる教養を授かり、記録官が認めるほどの裕福な家格に属しながらも、その身分が支えうる限度を超えた放蕩に溺れるのを止めることはできなかった。

英国軍による攻略ののち、連隊はバルセロナに駐屯した。キャリックは同地で、カール大公を支持するスペイン貴族らと親交を結んだ。その中に、名家にして富裕なるドン・ラファエル・デ・ポントがおり、この若き士官に並々ならぬ友誼を寄せた。キャリックは生来カトリックとして育てられており、英国軍の同僚の前で口にしていた信仰の建前とは裏腹に、進んで友のミサに同行した。同僚の士官らは、これを友に対する愛想のよさの表れとしか受け取っていなかったと記録は伝えている。

二人の道楽者が色里の冒険へと繰り出す際、夕べの祈祷はしばしば格好の待ち合わせの場となった。ある宵、一人の老女中がドン・ラファエルのもとへ文をもたらした。修道院近くの窓の下で落ち合いたい、スペイン貴婦人のもてなしを恐れぬならば友を伴って来られたし、との誘いであった。キャリックはこの誘いに応じた。刻限となり、外套に深く身を包んだ二人はバルコニーの下に佇んだ。やがて件の女が再び窓辺に姿を見せ、二通目の文を投げ落として、しばし待つよう告げた。一刻ほどが過ぎたのち、女が降りてきて背後の扉を開き、二人を瀟洒な居室へと招き入れた。そこには二人の若い女が待ち受けていた。

交わされた挨拶はごく短かった。二人が女たちに歩み寄ろうとしたまさにその時、階段から凄まじい物音が響き渡った。二人は女たちを離れ、抜刀して窓際へと退いた。物音が止んだ刹那、床が震え、足下から真っ逆さまに崩れ落ちた。落とされた暗く湿った地下室で、待ち構えていた男たちに武器を奪われ、猿轡を噛まされ、縄を打たれた。盗賊どもは金品をことごとく奪い去り、キャリックの上着の金モールまでも引き裂いて持ち去った。長い時間放置されたのち、二人は蓋のない長持に押し込められ、街の大広場の中央へと運び出されたのである。

広場に転がされてから一刻ほど経った頃、キャリックの麾下にあった軍曹が、銃兵の一隊を率いて巡回に通りかかった。その声を聞き留めたキャリックは、身をよじって出せる限りの物音を立てた。軍曹らは音の出所を探り、二つの長持を発見して二人を戒めの縄から解き放った。翌朝、ドン・ラファエルの執事がキャリックの宿舎を訪れた。主人は病臥の床にありながらも挨拶を述べ、この包みを届けよと言付かった、と執事は語った。包みの中には、懐中時計一つ、ダイヤモンドの指輪一つ、そして二百レアル・デ・オチョ(八レアル銀貨)の為替手形が収められていた。記録によれば、この金額はキャリックが奪われたと訴えていた被害額に違わず、友が被った損失を償わんとするドン・ラファエルの気遣いであった。

やがてイングランドへ帰還したものの、キャリックにはすでに士官の職はなく、他に糊口をしのぐ術も見出せなかった。それにもかかわらず、身についた贅沢と遊興を捨て去ることは叶わなかった。街の女たちから金を融通されることもあったが、そのような施しだけで放蕩な暮らしを支えきれるはずもなかった。かくして彼は同郷のスミスと結託し、街道で旅人の財布を狙う追剥へと手を染めた。間もなく別の同胞バトラーも一味に加わったが、キャリックは後にこの男を密告し、その証言によってバトラーは露の命と消えた。アイルランドに残るキャリックの兄は弟の荒んだ行状を聞き及び、ダブリンへ戻るよう懇願する手紙を送った。過去の過ちは不問に付し、暖かく迎え入れて新たな身代を用意すると約束し、良心を取り戻すことを諦めるなと説いた。肉親への帰参の道はなお開かれていたものの、キャリックがその身を持ち直すことはなかった。

キャリックは忠告に背を向けた。一度放免されるやいなや、フィンチリー・コモン、ハウンズロー、バグショット・ヒースの街道へ舞い戻り、強盗を重ねた。奪い取った金は、賭場や豪奢な衣装、あるいは付き従う女たちへと湯水のごとく消えていった。街道での稼ぎが滞るようになると、今度はモロニー、キャロルといったアイルランド人の徒党と手を組み、ロンドンの辻で通行人を襲い始めた。一時は逮捕を免れつつ、より多くの実入りを得ていた。

ある夜、午前一時から二時の間、彼らはリンカーンズ・イン・フィールズにほど近いリトル・クイーン・ストリートで一台の駕籠を遮った。乗っていたのは名士ウィリアム・ヤングであった。キャリックは短銃を突きつけて脅し、一味は五十ポンド相当の金時計、帯剣、そして四十ギニーの金貨を強奪した。キャロルが見張りに立ち、モロニーが金を出せと詰め寄った。この凶行から間もなく、キャリックとモロニーは捕縛された。キャロルのみがアイルランドへの逃亡に成功した。

ニューゲート監獄に収監されたキャリックは、当時の記録が奇異と認めるほどの軽妙な態度を崩さなかった。牢舎を訪れる面会人に対し、自らの辿った波乱の数々を、あたかも賭場の座興で語り聞かせる艶笑譚のように披露したのである。その噂は街中へと広がり、好奇の目を向けた見物人が殺到した。看守らは面会人から拝観料を取り立て、客足の途絶えぬ牢門は看守たちに思わぬ実入りをもたらした。キャリックはこの好奇の熱狂を冷笑し、タイバーンへと引き立てられる日には、群衆は一文も払わずに自分を見物できるのだからと冗談を飛ばした。独房から女たちを遠ざけるよう訓戒されたにもかかわらず、最期の日まで、かつて侍らせた幾人もの情婦を身の回りに侍らせていた。

刑場に至っても、キャリックの飄々たる不敵さは揺るがなかった。ニューゲートの教誨師パーニーの記録によれば、彼は伊達男然とした身振りを崩さず、群衆の中に見知った顔を見つけては会釈を交わし、護送車の荷台が引き払われるその刹那まで軽口を叩き続けていたという。自らはローマ・カトリック教徒であり、独自の流儀をもって神との和解を遂げたと放言した。記録官はこれを真の改心とはみなさず、断頭の場に臨んでなお、己の晴れ舞台を演じ切ろうとした男の虚栄として描き出している。

一七二二年七月十八日、ジェームズ・キャリックはタイバーンにおいて刑に処された。数え年およそ二十七歳であった。手当の限度を知らず散財した若き士官は、スペインの館で陥穽を味わい、やがてイングランドの街道、裏通り、そして牢獄へと身を転落させた。美しき装束と豪奢への執着こそが、その数奇な境遇を貫く一本の糸であった。護送車が足下を離れる最後の瞬間まで、彼は見物人の群れの前で、誇り高き伊達男の仮面を脱ぎ捨てることはなかったのである。

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この実在事件の記録をお読みいただきありがとうございます。本事件をもとに3つの小説企画(中篇・長篇・三部作)を構想しています。あなたが最も読みたい作品にぜひご投票ください。

中篇小説(ノヴェラ)

袖裏の密書

全編完全創作の中編小説。バルセロナの軍営にて、ある急使が拾い上げた密書には、友軍の士官が要塞の見取図を敵へ売り渡したとの告発が記されていた。文を手渡した老女中は姿を消し、名指しされた士官は汚名を雪ぐべく決闘の準備を進める。急使は書庫へ潜入するために軍の印章を盗み出した事実を隠し通しながら、告発の真の主を突き止めねばならない。軍法会議による公の査問が始まる刻限までに、男は誰を告発すべきか決断を迫られる。名誉と偽りの狭間を描く歴史諜報譚。

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長篇小説(ロマン)

フィンチリーの三ギニー

架空の犯罪長編小説。ロンドン北方の街道を荒らし回る追剥の一味にあって、ある男が紋章の刻まれた懐中時計を密かに隠し持った。足のつく危険を冒したその獲物は、やがてリボン売りの娘の兄のもとへ預けられる。兄の罪を告発すべきか、それとも無実を証明すべく真犯人を暴くべきか、娘は血肉の情と正義の狭間で葛藤する。その間にも、頭目は辻駕籠を狙う大がかりな襲撃を企て、取り分を寄こせと迫る。危うい忠誠と市井の捜査劇を描く歴史サスペンス。

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大河三部作(トリロジー)

街道の連中

全三巻からなる架空の大河三部作。第一部では、弟を守るため手配書を偽造し続ける女追剥の逃避行を追う。第二部では、襲撃された辻駕籠の乗客の中から元兵士の凶賊を割り出そうとする老軍曹の執念を描く。第三部では、二つの事件を裏で糸引いていたのが同一の豪商であることを突き止めた未亡人の復讐の行方を描く。一巻ごとに事件の決着を見せつつ、ロンドンの暗渠に張り巡らされた巨大な犯罪網を暴き出す重厚なる歴史司法絵巻。

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歴史的典拠と文学的再構成について

原典『ニューゲート・カレンダー』newgate-027(巻末注を含む全2,185語)を完読。SHA-256:0ea0d97ed63185a470d76e356a320c1036861db91fd5d1edf8fab2eb657f3896。本編は編注[19]以前の記録的事実を採用し、1927年版編者の評論は除外した。原典はキャリックの処刑年月日を一七二二年七月十八日、享年およそ二十七歳とする。スペインでの少尉任官、ドン・ラファエル・デ・ポントとの交友、邸宅での落とし穴の罠、金品の補填、イングランド帰還の顛末は本原典に基づく。バルセロナ攻略の具体的な年月日は編注のみに現れるため採用していない。二百レアル・デ・オチョはキャリックの申告被害額に合致し、原典はラファエルの行為を弁償と位置づけており、包みの中の各品々の出所までは断定していない。バトラーはキャリックの証言により処刑されたが、その詳細な審理内容は省略した。重複排除:キャリックはハンフリー・アンジャーの共犯者として名が挙がるが、アンジャー編は彼の独立した悪行を主軸とし、本編はキャリック固有のスペインでの経歴、街道および路上強盗、1722年の刑死を追っている。公開コーパスlot-06-300および下書きCap400との同一性・重複はない。共犯や強盗という主題の重複は別件として扱う。原典2,185語を全読し、本編および三篇の構想案を完備した。

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