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Maison BeaulieuMAISON BEAULIEUAB ÉDITIONS · フランス料理と欧州歴史記録の出版館
裁判とスキャンダル · イングランド

第十一マイル標の途上

ハウンズロー・ヒースの街道筋にて、ジョン・コール・スティールが忽然と姿を消した。歳月が流れたのち、窃盗の咎で服役中であったベンジャミン・ハンフィールドなる囚徒が、その死に先立つ追剥に加担したと自白し、ジョン・ホロウェイとオーウェン・ハガティの名を首謀者として告発する。一身の保身と減免を賭けたこの密告と、三人の男が残した微かな足跡を巡り、捜査陣と法廷による過酷な真実の究明が幕を開ける。

ハウンズロー・ヒースの荒野を貫く街道の傍らで、ひとりの男が忽然と姿を消した。ラベンダー香水の商を営むジョン・コール・スティールは、ロンドンを発ち、ベッドフォントに構えた自らの農園へと向かっていた。いつものように無事帰宅するはずであったが、その姿は見えず、案じた近親者らは間道や藪の奥深くまで捜索の手を広げた。やがて茂みの下から発見された遺体は、頭部と顔面を無残に叩き割られ、長靴と帽子は剥ぎ取られ、衣服の物入れは刃物で無残に切り裂かれていた。遺体の傍らには軍用の古びた陣笠が遺棄されており、当初は兵卒による凶行が疑われたものの、下手人の見当は杳として知れなかった。のちに検死陪審に示された所見によれば、被害者の頸部には革紐が固く巻きつけられ、傍らには太い棍棒と履き古された短靴が遺棄されていたという。街道の反対側にも血痕が点々と残されていたことから、捜査にあたった者らは、遺体が引きずられて遺棄されたものと推断した。

スティールの家族は、その帰りを待ちわびていた。ボロウが書き留めた裁判記録の記述は、日時の符合にわずかな齟齬を孕みつつも、記憶の断片を繋ぎ合わせて被害者の最後の足取りを再現している。商人はラベンダーを栽培するベッドフォントへ足を運び、フェルサムにて一夜を明かした。明くる夕刻、辻馬車を拾えなかったため、徒歩でロンドンへの帰途についた。失踪が起きたのは、一八〇二年十一月初旬のことであった。

その後数年間にわたり、探索はことごとく暗雲に閉ざされた。ブリストルにて激しい口論の果てに互いを恐るべき大罪人として告発し合った二人の職人が捕縛されるなど、幾人かの不審者が浮上したものの、取り調べの結果、彼らの無実は証明された。無実の罪に苛まれた彼らを救済すべく義捐金が集められ、治安判事のリチャード・フォード卿は三ギニーの手当とリヴァプールへの通行手形を与えて放免した。遺留品である軍帽の線からも下手人の特定には至らず、事件は迷宮入りとなったかに見えた。

事態が急変したのは、別件の窃盗で有罪判決を受け、ウーリッジの監獄船で流刑の船出を待っていた一人の囚徒の口からであった。その男、ベンジャミン・ハンフィールドは重病に伏し、今わの際に過去の凶行を打ち明けて魂の救済を得たいと申し出たのである。治安判事らは彼を陸に揚げ、かつての荒野へと連行した。ハンフィールドが指し示したのは、第十一マイル標のほど近く、木立の縁であった。彼は、ホロウェイとハガティの二名から、街道を歩く者を狙う追剥、すなわち「ノ・トビー」の企てに誘われたのだと語り始めた。その供述によれば、三人は旅人を待ち伏せるべく木立の闇に身を潜めていたという。昼下がりにロンドンを発った彼らは、ベル亭という旅籠に立ち寄って黒ビールをあおり、第十一マイルの里程標近くで息を殺していた。月が昇ると、ホロウェイは着くのが早すぎたと呟いた。やがてベッドフォントへ向けて街道を進んでいた折、ホロウェイが足音を聞きとがめたのだとハンフィールドは証言した。

ハンフィールドの弁によれば、スティールは所持金を差し出し、命ばかりは助けてくれと哀願したという。だが、ホロウェイが手控帳まで奪おうとしたため抵抗が生じ、ハンフィールドがその両足を押さえつけ、ハガティが衣服を探った。揉み合ううちに男たちは街道の反対側へともつれ込んだ。折悪しく馬車が近づき、スティールが悲鳴を上げると、ホロウェイは「黙らせてやる」と毒づき、棍棒で被害者の頭部と胴体を滅多打ちにしたという。

この凄惨な経緯を物語った男は、傍観者ではなく、自らも現場で手を下した共犯者の一人として罪を告白したのである。ただし彼は、ほかの二人が息絶えた被害者から離れる前に、自らはその場を逃げ出したのだと主張した。

ハウンズローにて、ホロウェイとハガティが追いついてきたと男は続けた。ホロウェイは「仕事を片付けた」証として、奪ったスティールの帽子をハンフィールドの手へ押しつけた。ハンフィールドは殺人にまでは同意していなかったとして異を唱えたものの、差し当たり口を噤むことを承知した。ロンドンへ戻ったのち、奪った手控帳の行方を問い質したハンフィールドに対し、ホロウェイは、危険を分かち合わなかった者に分け前を与える謂れはないと撥ねつけた。ほどなくして、帽子の裏地に被害者の名が記されていることに気づいた三人は、石を詰めて裏地を固く縛り、ウェストミンスター橋の近くからテムズ川の底へと沈めたという。

この告白が、ただちに公の告発へと発展したわけではなかった。ニューゲート監獄の獄中にて、ハンフィールドは事件の全容を知るのは自分たち三人だけだと口を滑らせ、ほかの囚人たちから「裏切りに走る気だ」と疑いの目を向けられた。ポーツマスの監獄船に移送されてからも、罪の意識から逃れるために強い酒をあおっては記憶を掻き消そうとしたと彼は述懐している。ついに意を決した彼は、ジョン・カーター卿にすべてを打ち明けた。しかし、彼自身が既に有罪宣告を受けた身であったため、そのままでは共犯者に対する証言能力が法的に認められず、当局は王室の特赦を仰ぐこととなった。役人が彼を迎えに赴き、ロンドンへの護送の途上、ハンフィールドは改めて殺害の現場を指し示した。こうして身の自由を得たことで、彼は国王側の証人として法廷に立つ資格を得たが、彼自身の深い関与ゆえに、その証言の信憑性には極めて慎重な吟味が求められることとなった。

ホロウェイはブレントフォードで捕縛され、海兵隊に入隊していたハガティは、ディール沖に停泊中のフリゲート艦シャノン号の船上で身柄を確保された。取り調べにおいて、ハガティはハンフィールドやホロウェイなど見知らぬと突っぱね、供述に上がった居酒屋に出入りした覚えもないと否定した。一方のホロウェイは、二人の顔は見知っていると認めつつも、酒を酌み交わしたこともなければ、ハウンズローの地に足を踏み入れたことすらないと強弁した。だが、ダイオット街の同じ酒場で三人の姿を見かけたという目撃者が現れ、ベル亭の奉公人であったジョン・ソーヤーもまた、ハウンズローで彼らの姿を幾度も見かけたと証言した。もっとも、三人が常に連れ立っていたかまでは確言できなかった。捕吏らはまた、ハンフィールドの供述と酷似した衣類を押収した。一足の短靴をハガティに試着させたところ、わずかに大きすぎたものの、靴職人はその靴がより小柄な足の持ち主によって履き崩された痕跡があると指摘した。

ワーシップ街の警察署に勤めるビショップという名の巡査が、思いがけない証拠をもたらした。二人の容疑者は、薄い仕切り壁一枚を隔てた隣り合わせの留置場に収容されていた。その独房の背後には便所があり、ビショップは尋問が終わるたびにそこに身を潜め、壁越しに交わされる密談を一筆書き留めていたのである。ある時、ハガティがホロウェイに向かい、犯行のあとでジンを飲んだ場所についてハンフィールドが何と証言したかを尋ねた。ホロウェイが「ブラック・ホース亭だ」と答えると、ハガティも確かにそこで飲んだと頷き合った。記録者ボロウの眼には、この立ち聞きされた会話こそが、互いの面識を頑なに否認し続けた二人の弁明を根底から覆す決定打と映った。

開かれた公判において、被告両名はハンフィールドの語る筋書きを全面的に否定した。ハガティは密告者など知らず、ハウンズローへも行っていないと主張し、ホロウェイはこの期に及んでハウンズローには幾度か赴いたことがあり、かの地でほかの二人と同席した可能性はあると前言を翻したものの、共謀の事実はいっさい否定した。弁護側は、自らの罪を免れるために道連れを売る共犯者の証言がいかに脆弱であるかを突いた。しかしながら、ボロウの纏めた記録によれば、密告者の口述、独房の壁越しに盗み聞きされた会話、素行を知る証言者たちの言葉、そして帽子と短靴といった物証が陪審の心証を固めていった。わずか十五分ほどの評議ののち、陪審員らは二人に有罪の評決を下した。

刑の執行を控えた前夜、二人の死刑囚はなおも自らの無実を叫び続けた。ホロウェイは、殺害現場とされる場所など露ほども知らぬと神に誓った。絞首台の露と消えるその間際にあっても、記録によれば彼は自ら「無実だ!」と叫び、次いで「評決は無効だ!」と言い募ったという。記録は続いて、二人の最期を見物せんと蝟集した群衆の凄惨な光景を描き出す。ボロウの推計によれば、その場を埋め尽くした人の波はおよそ四万人に達していた。押し寄せる群衆の圧迫に抗えず押し潰される者、身動きの取れぬまま息絶える女たち、足下に踏み躙られて落命した少年、そして人の手から手へと受け渡され、からくも荷馬車の下へ押し込まれて命を拾った赤子の姿があった。折り重なった遺骸は各所の救護所へと運び込まれた。二人の男が無実を叫びながら絶命したその刹那、公開の処刑という見世物そのものが、新たな無辜の血を路上に流すという惨憺たる結末をもって、この事件は幕を閉じたのである。

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この実在事件の記録をお読みいただきありがとうございます。本事件をもとに3つの小説企画(中篇・長篇・三部作)を構想しています。あなたが最も読みたい作品にぜひご投票ください。

中篇小説(ノヴェラ)

帳場の外套

商人や兵卒、行商人が行き交う寂れた街道沿いで、女手ひとつで旅籠を切り盛りする女主人。ある夜、溝で拾ったと称する見知らぬ男から一着の外套を預けられるが、翌日、その裏地に隠された細工を目にした彼女は、治安判事に届けるべきか、それとも旅人と浅からぬ関わりのあった我が子を庇うべきか、引き裂かれるような葛藤に直面する。実在のホロウェイ事件の人物や顛末を離れ、持ち主の名なき一着の遺留品をめぐって静かに息詰まる村の緊迫を描き出す中篇小説。

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長篇小説(ロマン)

第十一マイルの里程標

ハウンズローの荒野を抜け、毎週のように旅人を運ぶ辻馬車の御者を主人公に据えた完全創作の歴史長編。街道で起きた無惨な強奪事件ののち、男は宿場に集う顔ぶれの中から凶行の客を見つけ出さねばならなくなるが、証言の口封じを狙う無頼漢の影が、愛する一人娘へと忍び寄る。実在の人物や史実の事件を借りることなく、一度きりの道のりの記憶が生死を分かつ、宿場町を舞台とした緊迫の街道ミステリ。

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大河三部作(トリロジー)

三つの宿場

街道の宿場から宿場へと密かに運ばれてゆく、一つの行李を巡る三部作の連作中篇。闇夜の諍いを立ち聞きした宿の給仕女、持ち込まれた長靴の歪みに不審を抱く靴職人、そして川底から引き揚げられた重石入りの袋に見覚えのある渡し守。名もなき三人の職人たちが下した些細な決断が、やがて捜査の行方を大きく揺るがしてゆく。史実の焼き直しにとどまらず、街道、遺留品、そして曖昧な記憶の綾に翻弄される市井の人々の運命を格調高く描く三部作。

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歴史的典拠と文学的再構成について

原典において記録者ボロウは、表題に公判期日である一八〇七年二月二十二日を掲げているが、記録の文字起こしにおいては複数の年号や月日が錯綜している。本編の叙述では失踪の時期を一八〇二年十一月初旬とし、襲撃の正確な日付については明記を避けている。また、ハンフィールドの供述は、自らも罪を認めた共犯者が証言と引き換えに特赦を得たという性質上、あくまで彼の主観的な申し立てとして扱われている点に留意されたい。

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