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Maison BeaulieuMAISON BEAULIEUAB ÉDITIONS · フランス料理と欧州歴史記録の出版館
警察と暗黒街 · フランス

巴里に待つ家族

パンタンの野良にて、鍬を振るう農夫の足元から六つの骸が露わとなった。姿を消した者たちを追う警察の手は一人の若き機械工へと伸び、やがて一族諸共がほぼ根絶やしにされた戦慄の真相を白日の下に晒すこととなる。

郵便取扱役の男は、頑としてその金を手渡そうとはしなかった。アルザスのゲブヴィレールにある窓口へ、ジャン・キンクの名を騙る若者が現れたのはつい先ほどのことである。されど、年の頃がどうにも合わぬ。不審を突かれた男は、すかさず自らをジャン・キンクの息子であると言い繕った。委任状を突き出し、手続きの不備を言い立て、執拗に食い下がる。だが、急ぎ呼び出された親族の女によって虚飾は即座に剥ぎ取られた。この男は決して名乗るごとき若者ではない。役人は断固たる態度を崩さず、五千五百フランの大金はそのまま郵便局の金庫に留め置かれた。

男の名はジャン=バティスト・トロップマン。彼が振りかざしていた紙片の陰には、すでに一つの骸が横たわっていた。そして、さらなる犠牲が続こうとしていた。求めし金を得るには新たな虚飾を重ねるほかなく、その嘘のひとつひとつが、哀れなる一族の者を一人また一人とこの男の毒牙へと引き寄せていったからである。のちに「パンタンの虐殺」として世を震撼せしめる惨劇の端緒は、巴里近郊の荒涼たる野を遥かに離れ、かつてアルザス出身の二人の機械工が結んだ浅からぬ信頼関係の中に潜んでいた。

最初の失踪者

トロップマンとキンク家との知遇は、機械工の職を求めて赴いた北フランスのルーベに始まる。当地にあって、ジャン・キンクは妻オルタンス、ならびに六人の子らと慎ましく暮らしていた。彼は故郷アルザスにも地縁を有し、当地での新たな商取引に心を動かされていた。若き機械工はこの主の信を巧みに得て、懐深く入り込んでゆく。千八百六十九年八月、商談を名目とした旅路が、二人をスールツやヴァットヴィレールへと向かわせた。ジャン・キンクはわずかの間留守にすると告げて家を出た。トロップマンと連れ立つ姿を目撃されたのを最後に、その消息はぷつりと途絶える。

やがてルーベの留守宅へ、夫からの便りが届き始めた。されど、そこに記されていたのは見知らぬ筆跡であった。手に怪我を負い筆を執れぬゆえ、同行の友に代筆させているとの口実が添えられていた。文面には大商いの順調なる推移と、それに伴う急な資金を用立てよとの指図が躍る。オルタンスは夫の事業を助けんと信じ込み、蓄えの五千五百フランを工面してアルザスへ送金した。夫の身分証を奪い取っていたトロップマンは、その名義を騙って為替を受け取ろうと画策したのである。

だが、郵便役人の拒絶によって企みは狂いを生じた。トロップマンは平然とルーベへ舞い戻り、ある解決策を提示する。長男のギュスターヴに必要な委任状を持たせ、受領に向かわせようというのだ。父親は目下、莫大な商取引のため巴里に留め置かれており、近く家族全員を同地へ呼び寄せる手はずになっているとも語られた。富への甘美な約束は、汽車の手配や待ち合わせの時刻といった微に入り細を穿つ具体性を伴い、怪しむ余地のない真実の相を帯びて一家の目を曇らせた。

とはいえ、夫の手によらぬ書状が相次ぐことに、オルタンスの胸騒ぎは消えなかった。母に代わり、次男が事の真意を質す手紙を認めた。返信には手の傷についての弁明が繰り返され、すべては順調であると記されていた。これらの書状は単なる犯行の小道具にとどまらぬ。それらは犠牲者たちの歩みを操り、出立の時を定め、ある時は到着を遅らせ、ある時は夜の列車へと一家を誘い出す見えざる手であった。家長たる父親の不在の肉声は、他人に奪われた署名を通じて、今なおその家庭を意のままに支配し続けていたのである。

長男ギュスターヴ、そして残された者たち

ギュスターヴもまた、金を手に入れることはできなかった。委任状の記載になお不備があったためである。青年はそのまま巴里へと赴いた。トロップマンは現地で彼を待ち受け、宿へと導くと、母へ宛てた一筆を書かせた。無事に到着した旨と、残る家族も追って巴里へ発つべき旨を告げる便りである。この短き文面は、オルタンスの疑念を打ち払うに十分であった。まぎれもなく、愛息自身の手になる筆跡であったからである。

ギュスターヴはトロップマンとともに街へ出た。翌日、宿へ戻ったのはトロップマンただ一人であった。後の捜査により、彼が凶器となる道具類を買い揃えた金物商や、彼の手中に渡ったギュスターヴの遺品が突き止められることとなる。哀れなる長男はすでにパンタンの野にて息の根を止められ、土中に埋められていた。その惨劇を知る由もなく、ルーベの留守宅では、母と幼き子らが巴里への旅立ちに胸を躍らせていた。

九月十九日、オルタンスは残る五人の子を引き連れて巴里の地に降り立った。約定の刻限より早く着いた彼女は、夫がいるはずの宿へと足を運ぶ。だが、そこに夫の姿はなかった。訝しんだ彼女は、再び駅頭へと引き返した。やがて、バルドという名の御者が駆る辻馬車に、母子六人とトロップマンが乗り込み、北郊のキャトル=シュマンへと向かった。一家の胸には何の疑念もなかった。同行する男は、駅の広場で偶々拾い上げた見知らぬ他人などでは毛頭なかったからである。

馬車が人里離れた道端に停まると、トロップマンはまずオルタンスと幼き二人を連れて闇の奥へと消えた。年長の三人は御者とともに車中に残された。しばらくして男が戻った時、その影はただ一つであった。彼は何食わぬ顔で辻馬車の運賃を払い、今度は残る少年たちを連れ出した。御者のバルドは凶行の瞬間を目撃せぬまま馬車を走らせた。されど彼の口供こそが、六名もの人間がいかにして引き離され、順を追って同じ死地へと引きずり込まれたかを解き明かす決定的な証言となった。

血塗られた野と港の波

翌朝、ラングロワという小作農が、畑の土の不穏な乱れと、地表から覗く一片の襤褸切れに目を留めた。ただちに通報がなされ、掘り返された土中から現れたのは、一人の女と五人の子供が折り重なった無惨なる死骸であった。遺品の確認から捜査の網はルーベへと伸び、巴里の宿でも身元が裏付けられた。だが、父親と長男ギュスターヴの行方だけが杳として知れぬ。二人の骸が発見されるまでの間、世間は彼ら自身が一族を屠って逐電したのではないかという冷酷なる疑いの目を向けさえした。

その頃、トロップマンはル・アーヴル港へと逃亡し、新天地アメリカ行きの船に潜り込もうと画策していた。だが、その挙動と所持していた旅券が官憲の目を引いた。九月二十三日、憲兵に連行される道すがら、男は突如身を躍らせて港の船溜まりへと身を投げた。居合わせた船大工のオゲールが即座に波間に飛び込み、溺れかける男を生け捕りにした。その懐からは、キンク家の名義なる公文書や遺品が次々と発見された。逃走劇の結末は、事の全容を知らぬ一介の職人が、この血塗られた事件の真相を海の藻屑と化す寸前で食い止めた瞬間でもあった。

トロップマンは自らの関与を認めざるを得なくなったが、当初はジャンとギュスターヴこそが主犯であると強弁した。しかし、間もなくパンタンの地よりギュスターヴの遺骸が掘り出され、その虚言は脆くも崩れ去った。十一月、男はついに重い口を開き、アルザスに葬られたジャン・キンクの埋没地を自白した。果たして、指定の場所から毒殺された家長の遺骸が掘り起こされた。相次ぐ失踪の謎は、ことごとく冷酷なる連続殺人の軌跡と重なり合った。アメリカのどこかを彷徨っているはずの「逃亡中の父」など端から存在せず、男の初弁は完全に瓦解した。

十二月下旬、重罪院の法廷に引き出された被告は、なおも実体の定まらぬ共犯者の存在を申し立てた。当代の名弁護士シャルル・ラショーが弁護に立ったものの、偽造文書、購入された凶器、数々の証言、奪われた財物の所持、そして二転三転した自白の変遷が網の目のごとく被告を締め上げた。陪審は躊躇なく死刑を宣告した。千八百七十年一月十九日、ラ・ロケット監獄の露頭にて、ギロチンの刃がトロップマンの首級を落とした。

新聞各紙は連日のごとくこの事件を報じ立てた。読者は凶行の辿った道筋、使われた凶器、そして犠牲者たちの面影を克明に記憶に刻み、錦絵や巷間の哀歌がその記憶を永く留めることとなった。世の人々は一連の惨劇を「トロップマンの犯罪」と呼んだ。されど、その凶行を完遂せしめたのは、他ならぬ「キンク」の名であった。家族が再び一堂に会する日を信じて疑わなかった、あの偽りの署名こそが、一家を破滅の淵へと誘い込んだのである。

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この実在事件の記録をお読みいただきありがとうございます。本事件をもとに3つの小説企画(中篇・長篇・三部作)を構想しています。あなたが最も読みたい作品にぜひご投票ください。

中篇小説(ノヴェラ)

一本前の列車

駅頭にて、希代の詐称者に迎えられる一家と、彼らの胸騒ぎの真意に気づきながらも声をかけ得なかった見知らぬ女客――二つの運命が交錯する瞬間を描く短編小説。

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長篇小説(ロマン)

父の筆跡のもとに

死者の名を語り続ける怪書状の足跡を追い、その配達記録を手がかりに真実を手繰り寄せてゆく一人の郵便局員の姿を描いた本格歴史法廷小説。

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大河三部作(トリロジー)

約束された富

ルーベの貧しき職人一家、冷酷なる偽造殺人犯、そして事件をセンセーショナルに書き立てる巴里の新聞記者たち――三者の軌跡が重罪院の法廷へと収斂してゆく三部作大河小説。

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歴史的典拠と文学的再構成について

本稿は、千八百六十九年十二月二十九日付『司法公報(Gazette des tribunaux)』に掲載された起訴状、書状の写し、被害者の足取り、ならびに公判冒頭の陳述記録を参照して執筆された。同紙特有の倫理的糾弾や通俗的な心理描写は排し、トロップマンの変遷する自白および告発内容は、客観的な物的証拠と明確に峻別して扱っている。また、当時の過熱した報道状況および死刑執行の実態については、画像歴史研究誌におけるミリアム・ツィクーナス(Myriam Tsikounas)の論考を参考とした。現代の諸文献においては逮捕日等の細部に異同が見られるが、本稿では公報の記述に従って逮捕日を九月二十三日とし、十二月の判決宣告日については特定を避けた。

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