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Maison BeaulieuMAISON BEAULIEUAB ÉDITIONS · フランス料理と欧州歴史記録の出版館
裁判とスキャンダル · 英国

アーゴシー号の喚き声

英船アーゴシー号の洋上にて、船長と一等航海士は水夫らが乗組員を脅迫し船の強奪を謀ったと告発した。これに対し水夫らは、船幹部による過酷な暴虐を訴え、そもそも船体が航行に堪えぬ状態であったと激しく反論する。水夫フレデリック・ジェイコブソンが船上での凶行の謀議を耳にしたと証言する一方、同僚トム・ウェストはそのような密談など一切聞いておらぬと言い放つ。起訴状はライアンとレヴァーソンを共謀罪に問い、ライアンとクリフォードにはカウチ船長および一等航海士カズンズに対する暴行の容疑を向けた。結審においてカズンズへの傷害容疑が精査されたものの、共謀の罪についてライアンとレヴァーソンには無罪が言い渡され、最終的な傷害の訴因についても一切の証拠が提出されぬまま幕を閉じた。

喜望峰の沖合にて、ライアンとレヴァーソンの両名が、船長、一等航海士、給仕長、ならびに甲板長を亡き者にし、さらに眠りについているトム・ウェストの喉笛を掻き切る密議を凝らしていた――フレデリック・ジェイコブソンはそう申し立てた。だが、それが何月何日のことであったか、彼の記憶は判然としない。この不穏極まる風聞はやがてロンドンの法廷へと持ち込まれ、船長と水夫らが互いに暴力と職務怠慢を責め苛む泥沼の争弁へと発展した。起訴状はライアンとレヴァーソンを反乱共謀の罪に問い、ライアンとクリフォードにはカウチ船長および一等航海士カズンズへの暴行の科を課していた。しかし、法廷で交わされた証言は、船体の耐航性から船上で起きた個々の騒情に至るまで、ことごとく食い違っていた。

プリマスの船主の手にある英国スクーナー船アーゴシー号は、ポート・アデレードで新たな水夫らを雇い入れた。カウチ船長の言によれば、前渡金を支払った上で、ライアンを甲板長として、レヴァーソンとクリフォードを平水夫として船に迎えたという。ところが航海が始まると、ライアンとレヴァーソンは船底から浸水が止まらず、船幹部らが部下を不当に虐待していると憤り、対するカウチ船長は、彼らによる抗命、脅迫、暴力行為の数々を書き連ねた。かくて法廷の審理は、凄惨な流血劇の解明からではなく、自らの航行の安全と正当性をめぐって双方が互いの不実を鳴らし合う、紛糾に満ちた航海の軌跡を辿ることから始まったのである。

二月十一日、カウチ船長は船尾からナイフの切先が突き出ているのを目にした。翌日、レヴァーソンは船長に詰め寄り、水が浸入している船腹をどう処置するつもりなのかと問い質した。船長は、前日に二名の検査官による点検を済ませており、アーゴシー号の航行に何ら支障はないと突っぱねた。しかしレヴァーソンはその合間に、船の取引先である商社ケナー&ゲイ社へ密かに書簡を送り、船長が浸水箇所の継ぎ目を覆い隠すため、検査後に積荷を移動させたと告発していた。その書面には、ナイフの刃が柄まで根こそぎ入るほどの裂け目があると記されていた。船長は船体がわずかに傾斜していたため二度目の点検前に釣り合いを正した事実は認めたものの、浸水を隠すために積荷を動かしたとの疑いは断固として否認した。

この書簡の存在こそが、船上の軋轢がやがて法廷闘争へと縺れ込む発火点となった。レヴァーソンは船主側に真実を告げたまでだと主張し、カウチ船長はそれを秩序を乱す不当な介入であり、水夫の不服従の証拠とみなした。船長自身、航海中二時間おきに排水ポンプを作動させていた事実は認めたが、その漏水は極めて微量であり、船が新造された時分からの癖にすぎぬと弁明した。ロンドン帰港後に船を乾ドックに入れた際、船底の小さなボルト穴一つが浸水の原因と判明したと船長は述べている。アデレードの検査官の報告書も耐航性に太鼓判を押していたというのが船長の言い分であったが、裁判記録には双方の主張が記録されているのみで、当時の検査報告書の全文までは残されていない。

二月十八日、船がアデレード港外に投錨していた折、ライアンは治安判事への出頭を求めて上陸を願い出た。カウチ船長が静かに任務に戻れと命じるや、ライアンはその顔面を殴打した。船長は一等航海士のカズンズを呼び、手錠を取りに向かった。その後、ライアンは治安判事のもとへ連行されたが、船長は彼を監視付きで船へ連れ戻すよう求め、甲板長の職を解いて平水夫に降格させた。カズンズもまた殴打の瞬間を目撃したと証言し、ライアンが船長の命に背き、手下を二人味方につければこの船を乗っ取ってやると放言したと述べた。だがこれらの一連の証言は、自らの権威と振る舞いそのものを部下から告発されている幹部側の口から発せられたものであった。

長き航行の途上、カウチ船長は水夫らの悪行を次々と挙げ連ねた。ライアンが操舵を放棄してウェストと諍いを起こしていたレヴァーソンに加勢したこと、クリフォードが見張りの最中に居眠りをしていたこと、そしてライアンが船長を刺し殺すかカズンズを海へ叩き落としてやると脅迫したことなどである。四月に入ると、カズンズは二度にわたる襲撃を受けたと訴えた。一度は前部甲板で複数の男に取り囲まれ、もう一度はライアンとクリフォードの二人に暴行され、後者にはボートの係留鉤で打ち据えられて昏倒したという。しかし、この二度目の暴行の現場には、折からの荒天と吹き荒ぶ飛沫に阻まれ、目撃者は一人もいなかったとカズンズ自身が認めている。

航海日誌を記していたのはカズンズであった。彼は二十四時間ごとに船上の出来事を記録していたと称し、排水作業や悪天候、日々の船内作業とともに事件を記した頁を証拠として提出した。その記述によれば、ライアンはある暗夜、「一等航海士など『行方知れず』にしてしまえば、ロンドンに着いたところで誰も文句は言えまい」とうそぶいたという。カズンズはその言を、海へ投げ捨てるぞという脅迫と受け取った。航海日誌は日付と事件を特定する手掛かりにはなり得たが、他ならぬ告発者自身の手で書かれた以上、私情を排した客観的な証拠たり得ないという弱念を孕んでいた。

反乱共謀の告発に決定的な根拠を与えたのは、フレデリック・ジェイコブソンの証言であった。彼は、クリフォードが居合わせる前で、ライアンとレヴァーソンが船長、航海士、給仕長、甲板長を皆殺しにし、寝込みを襲ってウェストの喉を掻き切る算段を立てていたのを耳にしたと語った。最初の密談は喜望峰付近であったというが、正確な日時は定かではない。船長の日誌を照合するならば、それは四月二十一日のことであった。さらにその二日後、男たちは再び幹部らの殺害を口にし、アーゴシー号をバハマ湾へと向かわせて船を売り払おうと謀り、ジェイコブソンにも一味に加わるよう誘いをかけたという。

されど、ジェイコブソンもまた、この船内の確執と無縁の無垢な傍観者ではなかった。彼は以前、船長から顔面を殴打され、寝台から引きずり出された挙句にカズンズから係留鉤で殴られそうになったと告白した。さらに、船内で起きている不穏な動きを逐一密告すれば、十シリングの小遣いと船主への口添えをしてやると船長から持ちかけられていたことも露呈した。証言台に立った彼は、幾つかの細部について記憶が定かでないと認め、最初の密議の際、ウェストは眠りこけていたと証言した。弁護側にとって、水夫らの凶謀とされる生々しい言葉の信憑性を疑うと同時に、自分を虐待した幹部に買収された密告者の立場そのものを鋭く衝く好機となったのである。

トム・ウェストの証言は、限定的でありながらも検察の構図に冷や水を浴びせるものであった。彼は船長に対する脅迫の言葉など一切耳にした覚えがないと証言した。ただ、ライアンから「なぜ幹部どもの側につくのか、俺たちの味方になれ」と持ちかけられたことがあったが、自分はどちらの側にも与しないと答えたという。したがって、ジェイコブソンが語る殺害計画の現場にウェストは居合わせておらず、彼の証言は密談の存在を完全に否定するものではなかった。しかしそれは、乗組員が二つに割れ、どちらに忠誠を尽くすべきかが宙に浮いていた船内の危うい実態を浮き彫りにした。

船幹部らは、乗組員がわずか八名しかおらず、数名が就労を拒めば航海の安全すら覚束ない状況であったと窮状を訴えた。一方の水夫らは、不当に短い休息時間、矢継ぎ早の過酷な命令、さらには罵声と暴力に晒されていたと反駁した。ジェイコブソンの弁によれば、体罰の脅しや食事の遅延が常態化し、ある時には船長が回転式拳銃(リボルバー)を手に船内を威嚇していたという。カウチ船長は水夫を殴ったことも、発砲したことも、口汚く罵ったこともないと頑なに否定し、カズンズもまた虐待の事実を退けた。陪審の前には真っ向から対立する二つの物語が提示されたが、法廷の記録には、どちらの言い分が真実であるかを客観的に見極める術は残されていなかった。

帰港後の逮捕劇の経緯もまた、証言者によって酷く食い違っている。カウチ船長は、七月六日にセント・キャサリン・ドックにおいて、洋上での暴行容疑によりカズンズがライアンとクリフォードを逮捕させ、船を降りていたレヴァーソンは翌週の月曜、アーバー・スクエアの治安判事に対するジェイコブソンの告発を受けて逮捕されたと述べた。ところが警察官ジョン・タッパーの証言によれば、七月六日の時点でカズンズの訴えにより逮捕されたのはライアンとレヴァーソンであったという。現存する公判記録の文面からは、この齟齬を埋めることは叶わない。法廷弁護士ブランチャード・ウォントナーの言によれば、その後に私選代弁人が被告三名全員を共謀罪に問うよう請求し、最終的に大蔵省の公訴局が事件を引き継ぐに至ったという。

しかし、訴因の変更それ自体が、彼らの有罪を証明するものではなかった。公判初日の起訴状はライアンとレヴァーソンの二名を共謀罪に問い、ライアンとクリフォードを船長および航海士への暴行の科に問うていた。さらに結審に至り、記録はカズンズに対する重傷罪の訴因を詳細に記しているが、これらの訴因の変遷は最後まで完全に整合されることはなかった。多様な罪状のそれぞれが、互いに一致せぬ別々の証言の上に危うく乗せられていたのである。

公判記録は、ライアンとレヴァーソンに対する反乱共謀の訴因を「無罪(NOT GUILTY)」の一言をもって結んでいる。また、カズンズに対する傷害の廉で追訴されたライアンとクリフォードについても、検察側は何らの立証証拠をも提示し得ず、両名ともに無罪と判決された。当初の告発要旨には船長および航海士に対する暴行がより幅広く記述されていたものの、私選代弁人が意図した三名全員の共謀罪の適用はなされず、初日の起訴状にその名がなかったクリフォードについて共謀の評決が下された形跡はない。

アーゴシー号は荒波を越えてロンドンの港へと帰り着いたが、法廷の判決が船上に渦巻いていた疑念のすべてを晴らしたわけではなかった。船長は船体の堅牢さを誇り、水夫は水漏れする継ぎ目の恐怖を訴え続けた。幹部らは規律を破る反逆を糾弾し、水夫らは理不尽な鉄拳制裁と過酷な労働を呪った。陪審は彼らに課された裁定を下すことで裁判を終結させたが、洋上で起きた個々の暗闘の是非を裁定したわけでも、いずれか一方の物語を唯一の真実として公認したわけでもない。ジェイコブソンの証言は法廷に響き渡ったが、それは大海のただ中で真に恐るべき陰謀が企てられたと断定するには、あまりに頼りなきものであった。

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中篇小説(ノヴェラ)

市場の閂

独立短編小説。極寒の夜、ヴァル=ロッシュの屋内市場から、頑丈な大扉の鍵が破られぬまま大量の穀物袋が忽然と姿を消す。真っ先に疑われた夜警は、広場の時計台の鐘が凍結して止まり、巡回の刻限が狂わされたのだと無実を訴える。若き時計職人の見習い娘は、計量台の帳簿、鐘つき男の遅刻の記録、そして鍵束に白く残された小麦粉の微粒子を手掛かりに真相を追う。堅固な錠前ばかりか、職場の管理の弛みこそが盗難の扉を開く――緻密な論理と証拠の対比で魅せる緊迫の法廷推理劇。

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長篇小説(ロマン)

走路の最終周回

独立長編小説。自転車競技の熱狂に沸く架空の街。決勝前夜、自転車競技場の金庫から売上金が根こそぎ奪われ、優勝候補の看板選手には計時係を買収して不正を働いたとの嫌疑がかけられる。計時係は出発合図の号砲が不当に遅らされたと言い張り、競輪選手たちの証言もまた、決定的な着差がついた周回や着順をめぐって紛糾を極める。一人の女性スポーツ記者が、計測原票、入場券の売上控え、窓口の日計表を徹底的に照合し、興行主が自らの負債を穴埋めするために掛け金を横領していた事実を暴き出す。勝鬨をあげる観衆の裏で、真の勝利を掠め取った者を射抜く社会派ミステリー。

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大河三部作(トリロジー)

三人の会計士

三部作小説。公金不正事件の爪痕残る共同体を巡り、帳簿の再調査に生涯を捧げる初老の元裁判所書記官の女性を描く。第一巻では、落橋事故の義援金横領のからくりを暴く。第二巻では、名画の素描が密売され不当に告発された美術館修復士の汚名を晴らす。第三巻では、改竄された名簿を用いて被災者支援金を詐取した地方名士の悪辣な罠を暴き立てる。舞台も手口も異なる三つの事件を、客観的な証憑と対立する証言の冷徹な照合によって解きほぐす、市民の良心と記録の正義を問う重厚な連作法廷劇。

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歴史的典拠と文学的再構成について

本稿は、英国中央刑事裁判所(オールド・ベイリー)の公判記録番号 t18780806-691(総語数4,366語)の全文、すなわち起訴状の冒頭から最終行の「無罪(NOT GUILTY)」宣告および傷害罪の結審に至る全記述を精読して作成された。原本保管ファイルのSHA-256値は fbdd0a80074bd49578a0611afdb9e007f79653dc3f08331e5a2cbfab3ae049b9 である。記録目録によれば開廷日は1878年8月6日であり、告発内容はウィリアム・エドワード・カウチ船長および一等航海士チャールズ・カズンズに対する反乱共謀、ならびにフレデリック・ジェイコブソンに対する教唆の疑いである。証言群はポート・アデレードからロンドンに至る航海中の諸事件を巡るものであるが、船の耐航性、船幹部および水夫らによる暴力の有無、交わされた会話の真意に関して激しく対立している。ジェイコブソンが殺害の脅迫を聞いたと述べる一方、トム・ウェストはその存在を否定した。記録によれば、当初の予備審問の後に私選代弁人の要請により共謀の訴因が追加され、後に大蔵省公訴局が訴追を引き継いだとされる。公判初日の起訴状において共謀罪の対象とされたのはライアンとレヴァーソンであり、クリフォードはカウチおよびカズンズに対する暴行致傷罪においてライアンと共に名を連ねている。弁護士ウォントナーは代弁人が判事に対して三名全員を共謀罪に問うよう求めた経緯に触れているが、記録の冒頭起訴状にはライアンとレヴァーソンのみが記されている。結審においては共謀罪に対する無罪判決が記録され、カズンズに対する最終的な傷害罪については証拠不十分としてライアンおよびクリフォードの両名に無罪が言い渡された。したがって、初期の手続き上の要請をもってクリフォードに対する確定訴因と解することはできない。なお、オールド・ベイリーの公判録(Proceedings)は法廷でのやり取りを後から印刷・要約した公記録であり、逐語的な速記録そのものではない。

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