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Maison BeaulieuMAISON BEAULIEUAB ÉDITIONS · フランス料理と欧州歴史記録の出版館
裁判とスキャンダル · 英国

冷めゆく珈琲

一八〇九年、サリー州コンプトン。棟割長屋の片側に暮らす老農ジョセフ・ホリスが、無残な骸となって発見された。隣室に身を寄せる店子のジェームズ・クーパーとその母メアリ。血にまみれた凶器、天井裏の衣類、家賃滞納を巡る遺恨、そして母の告白が法廷の調べを動かしていく。息子は絞首台へ送られ、母は無罪放免となった。

近隣へ使いに出された少女が、ある金曜の朝、ジョセフ・ホリスの住居へと足を踏み入れた。玄関の扉には鍵が下りていなかった。卓上には飲みさしの珈琲が冷め、炉端には齧りかけの焼いたパンが残されていた。その傍らに、血煙に塗れた老人が倒れ伏していたのである。倒れた椅子と散乱した凶器は、凄惨な争いがあったことを物語っていた。羊の買い付けに向かうはずであった老人の朝は、主を失った朝餉の卓を残したまま、不意に断ち切られた。

ホリスはサリー州コンプトンの小さな農家の片割れに独り身で暮らしており、壁一枚を隔てたもう一方の棟を、ジェームズ・クーパーとその母メアリに貸し与えていた。かつて両家を繋いでいた通い口はすでに塞がれていたが、物音ばかりは筒抜けであったと近隣の者は語る。七十に手が届こうというホリスは、頑健な体つきで極めて爪に火を灯すような暮らしを送る一方、自らの蓄えを見せびらかす悪癖があった。ある証人の言によれば、三つの麻袋があり、一つには紙幣、もう一つには金貨と銀貨、最後の一つには銅貨が詰まっていたという。わずか六ペンスを支払う折にも、わざわざ金貨や銀貨を掌いっぱいにあけ広げて見せ、百ポンドもの大金を所持していたのを目撃されていた。家屋全体の持ち主であるホリスに対し、クーパー家は店子の身に過ぎない。このあからさまな財の誇示が盗賊の気を惹いたとも疑われたが、それが直ちに動機を裏付けるものではなかった。家事の一切は、日参するメアリ・ウィズダムという女の手で賄われていた。

出立を翌日に控えた五月三日、ホリスはゴダードなる人物にギルフォードの定期市へ赴く旨を語っていた。早朝の四時前には起き出し、羊を仕入れに行く算段であった。日課の家事に訪れたメアリ・ウィズダムに対しても、明朝は立ち寄るに及ばぬと言い含めていた。それゆえ木曜の日、女は訪れなかった。明けて金曜の朝十時頃、その十三歳になる娘が様子を見に訪れ、無惨な亡骸を見出したのである。娘は転げるように助けを求め、折よく入会地を横切っていた巡査を連れ戻った。まもなく村の者たちも騒ぎを聞きつけて集まってきた。

遺体は床に横たわり、脚を交差させ、頭を一方の腕の上に載せていた。カムデン・ペラムの記録によれば、その姿は殺害ののちに何者かの手によって整えられたかのようであったという。遺体の下からは血糊のこびりついた折りたたみ式の小刀が、さらにその傍らから同じく血に染まった火かき棒が発見された。ホリスの頭蓋は砕かれ、下顎は砕折し、喉はほとんど切断されていた。これらの凶器と荒らされた朝餉の跡は、至近距離からの急襲を物語っていたものの、まだ下手人の名を指し示すには至らなかった。

その金曜の夜、隣家の母子は直ちに捕らえられ、家宅捜索を受けた。だが治安判事らは確証を得られず、嫌疑不十分として二人をいったん放免した。ホリスの身辺にはわずか二シリングしか残されていなかったことから、凶行の主が金袋を奪い去ったものと推測された。

捜査はその後も続けられた。やがて、両者の間に家賃を巡る諍いがあったことが浮かび上がる。事件の前日、ホリスは滞納を理由にクーパー親子の立ち退きを申し渡しており、息子ジェームズは「半月と経たぬうちに思い知らせてやる」と悪態をついていた。その折、母親は「神よ、お赦しを」と呟きつつも、「あの老いぼれを好く者など誰一人おらぬ」と口にしていたという。さらに住居を綿密に調べたところ、屋根裏からジェームズの血染めの衣類が発見され、現場に残されていた小刀と火かき棒もまたクーパー家の所持品であることが露見した。動かぬ証拠を得て、母子は再び捕縛された。母メアリは、息子がホリスを手に掛けたことは知っていたと明かしながらも、自らの関与は断固として否定した。息子のジェームズが小刀と火かき棒を手に夜陰へ出奔し、間もなく隣家から物音と助けを求める叫び、さらには間仕切り壁に激しく何かがぶつかる音が響いたと彼女は申し立てた。しかし、凶行そのものを目撃したわけではないという。彼女の言わば「事後の知情」を認める告白は、共犯関係を否定する防壁でもあった。

一八〇九年、クロイドンで開かれた夏季巡回裁判において、陪審員らは物的証拠、伝聞証言、そして母親の申し立てを照らし合わせることとなった。起訴状に掲げられたのは、頭蓋骨折と喉の切創という二つの致死傷であった。審理は丸一日に及び、数多くの証言が重ねられたが、殺害の瞬間を直視した者はいなかった。血染めの衣類、見覚えのある道具、滞納された家賃、そして吐き捨てられた脅迫の言葉が、ジェームズを疑いの中心へと追い詰めていった。一方のメアリは、闇夜に聞いた物音と、のちに認めた事実の隠蔽によって法廷の追及を受けた。ペラムの記録によれば、息子には有罪の評決が下り、母には無罪が言い渡された。この峻別は決定的な意味を持っていた。同じ屋根の下にいながら、二人の辿る道はここで完全に分かたれたのである。

ジェームズには極刑が申し渡された。記録者は弁論の応酬も陪審への説示も詳らかにしておらず、処刑の正確な日付すら記していない。ただ、明くる月曜日に刑が執行されたことのみを伝える。ペラムによれば、彼は自らの判決が正当なものであることを受け入れたとされるが、詳細な告白録は残されていない。簡潔な記述は、失われた公判の全容を埋めるものではない。

ホリスは己の持ち家で、目と鼻の先に店子を住まわせながら命を落とした。争う物音は容易に壁を越えたはずであったが、法廷にはその死の瞬間を証言する者が一人もいなかった。卓上の珈琲、齧りかけのパン、散逸した金袋、凶器となった道具と衣服の数々――それら物証の連なりが捜査を支え、やがて断罪の槌を鳴らした。その傍らで、母メアリの証言は危うい境界を描き出した。知ってはいたが、手を貸してはいない、と。無罪判決はその紙一重の差異を認めたのである。古き記録は、生き永らえた彼女のその後の流転も、骸を最初に見出した少女の行く末も語らない。ただ、開け放たれた扉の向こうに、二つに引き裂かれた家屋と、二つに分かたれた運命の残照を留めるのみである。

資料注釈:本篇は、カムデン・ペラム編『犯罪年代記――新ニューゲート・カレンダー』第一巻(ロンドン、T・マイルズ社、一八八七年刊、四五五—四五六頁。序文日付:一八四〇年七月一日)所収の「ジェームズ・クーパー、殺人により処刑」を基に再構成したものである。ペラムは巡回裁判のあらましと状況証拠の要約を録しているに過ぎず、完全な審理速記録や当時の公式記録を網羅したものではない。現地の行政文書、司法原本、教区簿冊等の照会は行っていない。

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中篇小説(ノヴェラ)

鉄槌の刻印

一八二〇年、アルプスの小村。鍛冶職人が作業場の金槌で相棒を打ち殺した廉で捕縛される。被害者の未亡人は夫の道具だと断定するが、年若い徒弟は柄の底、打撃面とは無縁の箇所に不自然な傷を見出す。それは借財の発覚を恐れた真犯人が、罪を着せるため道具を細工した痕跡であった。村の参事会が貸借帳簿を押収し、追い詰められた負債者は犯行を自供、奪った金を返還する。釈放された鍛冶職人は、再び徒弟とともに鞴(ふいご)の前に立つ。物証が導く鮮烈な逆転と円満な解決を描く短篇小説。

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長篇小説(ロマン)

二重の壁

一八六四年、リール。一軒の家屋を二つに割った長屋で、家主の金貸しが骸となって転がり出た。家賃を踏み倒して逃亡を企てていた階下の店子が捕らえられるも、その母は「椅子の倒れる音しか聞いておらぬ」と頑なに口を閉ざす。若き書記官が帳簿の筆跡、錠前の軋み、隣人らの証言の齟齬を丹念に洗い直すうち、金貸しが自らの狂言失踪で借金を吊り上げようとし、それに気付いた別の借財人に口を封じられた真相を突き止める。書記官の証拠提出により無実の青年は放免され、母も罪を問われることなく日常へと戻る。緻密な捜査の果てに人間の業を照らし出す本格法廷長篇。

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大河三部作(トリロジー)

三つの戸口

壁一つを隔てた共同住宅で起きる、三つの不可解な変死事件。一八三二年ナント、家主殺害の濡れ衣を着せられた未亡人が、隣人の凶器偽装を暴いて自らの潔白を勝ち取る。一八六七年ゲント、父殺しの疑いを掛けられた息子が、農場を守らんとした妹の遺言書偽造を暴き、妹は罪を認めて減刑を得る。一九〇一年リヨン、階段からの転落死に不審を抱いた女性店子が、町医者の毒殺計画を告発する手紙を暴き出す。それぞれが一話完結の結末を迎え、血の絆よりも真実を選び取った女たちの矜持を描き出す歴史連作三部作。

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歴史的典拠と文学的再構成について

本篇は、カムデン・ペラム編『犯罪年代記――新ニューゲート・カレンダー』第一巻(ロンドン、一八八七年刊、四五五—四五六頁。序文一八四〇年)所収の回顧録「ジェームズ・クーパー、殺人により処刑」を基に翻案したものである。ペラムによる巡回裁判の概略および状況証拠の記述に拠っており、完全な裁判記録や同時代の独立した一次史料による照合は行われていない。

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