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Maison BeaulieuMAISON BEAULIEUAB ÉDITIONS · フランス料理と欧州歴史記録の出版館
裁判とスキャンダル · 英国

ハワード街の誓約

一六九二年十二月のロンドン。劇作家・陸軍大尉のリチャード・ヒルは名高き女優アン・ブレイスガードルを強奪せんとして果たさず、モウアン卿とともにその宿舎の前で待ち伏せた。そこへ姿を現した人気俳優ウィリアム・マウントフォートを、ヒルは刃で一突きにして落命せしめる。襲撃の場に居合わせたとして告発されたモウアン卿は貴族院の法廷に引き出され、審理の末、六十九名の貴族が無罪、十四名が有罪の裁きを下した。

名優アン・ブレイスガードルを攫わんと差し向けられた辻馬車は、空のまま夜の闇へ消えた。ドルリー・レーンの路上で劇場の同僚ペイジが身を挺して遮ると、陸軍大尉リチャード・ヒルは白刃を抜いた。その傍らには、若き貴族モウアン卿が佇んでいた。それから数刻の後、ヒルが恋敵として憎悪を募らせていた俳優ウィリアム・マウントフォートが、刃に斃れ命を落とすこととなる。マウントフォートには、すでに妻があった。

一六九二年十二月九日のことである。ヒルは、かねてよりブレイスガードルへの求愛をマウントフォートが妨げていると逆恨みし、日を追うごとに復讐の言葉を口にしていた。証言に立ったジョージ・パウエルによれば、ヒルはマウントフォートの血を吸わねば収まらぬと息巻いていたという。ジョン・ハドソンもまた、似た放言を耳にしていた。エリザベス・サンディーズの述懐によれば、ある晩餐の席でヒルは、わが計略を邪魔するなら刺し殺してやると脅し、その折、モウアン卿は「友のために力を貸そう」と請け負ったという。その言動のみをもって直ちに凶行の共謀と断定することはできぬにせよ、その夜の空気がただならぬ殺気を帯びていたことは疑いようもなかった。

凶行の発端は、クレイヴン卿邸の近傍であった。ブレイスガードルが母とペイジを伴って帰路についた折、突如として二人の兵士がペイジの腕から彼女を引き剥がし、待ち伏せていた手勢が一行に襲いかかった。母は娘の首にかじりついて馬車への連行を必死に拒み、ペイジは助けを求めて駆けた。狂乱したヒルは剣を抜き、立ちはだかる母とペイジに刃を浴びせ、片手で女優の身を押さえつけ、もう一方の手に抜き身を提げたまま、彼女の住まうハワード街の宿舎まで強引に連れ戻した。宿舎の前に至っても、ヒルはなおペイジを脅迫し続けた。かろうじて拉致こそ免れたものの、ひとりの女の行く末を己の意のままに支配せんとする男たちの狂気から、彼女は逃れ得ていなかった。

誘拐が水泡に帰したのちも、ヒルとモウアン卿の二人はハワード街の宿舎前を立ち去ろうとしなかった。手勢の兵士らは解散させたものの、二人の男は街路に残り続けた。屋内の人々は戦慄した。同居していたメアリー・ペイジは路地を走り、近所に住むマウントフォートの妻のもとへ赴き、夫を呼び寄せるか護衛を付けるよう急を告げた。ヒルが抜刀していることは誰もが承知していたが、当のマウントフォートにその急報が届いたか否かは、誰にも定かでなかった。

やがて、マウントフォートが街路へと足を踏み入れた。最初の邂逅について、証言はすでに食い違っている。ブラウン夫人の証言によれば、モウアン卿はマウントフォートに抱擁を交わし、あなたに深い敬意を抱いており諍いなど望んではいないと告げ、ヒルとブレイスガードルのあいだに生じた悶着を説いたという。マウントフォートはそれについて存ぜぬと応じ、なぜ卿ほどの御方がヒルのような無頼の徒に肩入れされるのかと咎めた。そのとき、見物人のブルーワー夫人は、ヒルが「剣を抜け」と迫り、マウントフォートがそれに応じた物音を聞いている。だが、刃の交わりが抜刀の前であったか後であったかは見極められなかった。急報に走っていたペイジ夫人は、まもなく夜気を裂く「人殺し」の悲鳴を耳にした。マウントフォートは夫人の肩にすがりつくようにして戸口へ倒れ込み、「ヒルに殺られた」と言い遺して意識を失った。

別の証人らは、薄暗い街路の灯火のもとで繰り広げられた短い惨劇を語っている。メアリー・ペイジの目撃では、二人が宿舎の前を徘徊していた折、抜き身を提げていたのはヒルだけであったという。しかし後に、モウアン卿もまた帯剣していたのを目にしている。ブレイスガードルの召使いエリザベス・ウォーカーは、ヒルとマウントフォートが二、三度太刀筋を交わしたのち、マウントフォートが傷を負ったと叫んで折れた剣を投げ捨てるのを見たと証言した。ヒルは闇の中へ逃亡したが、モウアン卿はその場に踏みとどまり、警吏に身を委ねた。近隣のエドワード・ウォリントンは両名が斬り合うのを見たものの、周囲の女たちの影に遮られ、ことの発端までは見えなかったと述べている。

マウントフォートの受けた手傷は致命的であった。裁判記録によれば、切先は右胸深くを貫通しており、名優は翌日、息を引き取った。検察側は、モウアン卿があらかじめ謀られた害意を共有し、襲撃を容易ならしめるべく同行したと主張した。二人のあいだに兇変の合意が存在したとするならば、卿自らが刃を振るわずとも、その場に居合わせたこと自体が謀殺への加担と見なされ得る。審理の焦点は、単に誰が刃を握っていたかという点に留まらなかった。モウアン卿はその場に共犯の友として侍っていたのか、それとも、暴発したヒルの凶行に期せずして巻き込まれたに過ぎなかったのか――その判別が求められたのである。

アン・ブレイスガードル自身も証言台に立ち、待ち伏せていた馬車のこと、腕を掴んだ兵士らの乱暴、そして抜き身の刀を提げたヒルが母と自分を威嚇しながら歩かせた一部始終を語った。彼女の証言によれば、ヒルはマウントフォートへの報復をあからさまに口にしていたという。凶行の後も二人が路上に留まっていた事実は複数の証言によって裏付けられた。検察側は、ヒルの度重なる脅迫と失敗に終わった拉致計画こそが殺害の直接の動機であり、卿はその助太刀を約していたと断じた。しかし、マウントフォートにとどめを刺した瞬間を、ブレイスガードル自身は目撃していなかった。

モウアン卿の弁護側もまた証人を揃えた。それらの申し立てによれば、卿は事件の数日前、マウントフォートの舞台上の技量を称賛し、酒を酌み交わしたいと好意的に語っていたという。召使いのエリザベス・ウォーカーは、ヒルが武装していたことと剣戟の場を目撃したことを再確認したものの、刃が突き刺さった瞬間にモウアン卿がどこに立っていたかについては証言者ごとに食い違いを見せた。この召使いは予備審問ののち、ブレイスガードルのもとを去っていた。証言のゆえに危害を加えられ投獄されることを恐れたためだと彼女は弁明した。姿を消していた事実は法廷の疑念を招いたが、貴族院の前に引き出された彼女は、誰かに買収されたわけでも脅されたわけでもなく、ただ身の恐怖から身を潜めていたのだと涙ながらに語った。

審理のさなか、貴族たちは再三にわたり証言の聴取を中断し、いかなる条件をもって殺人の共犯と見なすかを列席の裁判官らに下問した。あらかじめ殺意を知りながら、その目的を果たすために加害者に同行した者は、自ら手を下さずとも共犯の罪責を負う。他方、単にその場に居合わせただけであり、偶然の遭遇であって積極的な加勢が証明されぬ場合は、その罪に問うことはできない。法官らは「友の傍らに立つこと」と「襲撃を成し遂げるために同行すること」とのあいだに厳格な境界線を引いた。しかし、その法理をもってしても、決定的な疑問は解けぬままであった。モウアン卿はマウントフォートを討つためにヒルに付き従っていたのか、それとも、狂態を演じる友を諫めようと連れ添っていたに過ぎなかったのか。

明くる一六九三年一月三十一日、モウアン卿はロンドン塔よりウェストミンスター・ホールへと護送された。その前先には、処刑用の斧を捧げ持った衛士が進んだ。卿はヒルの兇行を教唆し幇助した同輩貴族として、貴族院法廷の裁きを仰ぐ身となったのである。起訴状は右胸に達した傷所を詳細に記録し、刃を振るった張本人としてヒルの名を挙げた。この厳粛無比なる法廷の威儀も、食い違う証言の曖昧さを拭い去ることはできなかった。裁定の場は事実の認定から、貴族たちの解釈に委ねられた法の解釈論へと移行した。彼らはモウアン卿の「現場への臨場」のみならず、その臨場が宿していた「内心の意志」を審問せねばならなかった。

審理は数日間に及んだ。証言者らは二人が路頭に佇んでいた位置を指し示し、ヒルの口にした呪詛を再現し、流血の傷口を詳述したが、すべてを矛盾なく繋ぎ止める単一の光景はついに浮かび上がらなかった。モウアン卿自身は、ヒルと行動をともにしていた事実は認めたものの、刃傷沙汰には一切関与していないと頑なに無罪を主張した。貴族たちの多数は、この弁舌を容認した。二月四日、評決が下された。無罪とする者、六十九名。有罪とする者、十四名。若き卿は放免された。数々の証言が致命傷を与えた犯人としてヒルの名を指弾していたが、この法廷は、姿をくらましたヒルの罪科を裁く場ではなかった。

この評決は、事件の核心に冷然たる問いを投げかけた。友を支えると誓った者が凶行の場に侍っていたとして、それは友の犯した罪業に加担したことを意味するのか。貴族院の審判において、卿が殺害の意志を共有していたと断ずるに足る証拠は示されなかったと判断されたのである。アン・ブレイスガードルは馬車からの拉致を逃れ、ウィリアム・マウントフォートは自宅の敷居の前に息絶えた。二つの出来事のあわいには、暗夜の暴言、砕け散った刀身、真相を見届け得なかった証言者たち、そして放免されたひとりの貴族の姿が残された。古記録はここで筆を絶ち、そののちリチャード・ヒルが辿った法の手続きについては沈黙を守っている。

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この実在事件の記録をお読みいただきありがとうございます。本事件をもとに3つの小説企画(中篇・長篇・三部作)を構想しています。あなたが最も読みたい作品にぜひご投票ください。

中篇小説(ノヴェラ)

空の辻馬車

完全な創作として描く中編小説。舞台は事件当夜のロンドン。窓の下で名女優を待ち伏せる男たちの密談を耳にした針立ての女がいた。馬車が寄せられ路上で抜刀の乱闘が起きた刹那、女は女優をとっさに仕事場の奥へ匿う。しかし、暴漢の一人は実の弟を雇い主とする士官であった。真相を公表すれば、家族は路頭に迷う。我が身の情愛を守るべきか、それとも無実の者が罪に問われるのを阻むべきか。理不尽な選択に揺れる庶民の葛藤を描く、緊迫の人間ドラマ。

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長篇小説(ロマン)

袖のなかの白刃

完全な創作として描く長編歴史ミステリ。街路で命を落とした一人の役者。その刹那を別々の方角から垣間見たのは、二階窓の町婦、劇場の舞台番、そして屋敷の小間使いの三名であった。路上に踏みとどまる若き貴族と、闇へ逃走する士官。法廷の証言台に立った彼らは、己の目で真に見たものと、胸中に宿る恐れとの境界を見失ってゆく。やがて町婦は、自らが口にした偽証が、かつて自分を育て上げた恩人の暗部を庇い立てしていた事実に気づく。法廷劇と人間の業を格調高く描く長編。

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大河三部作(トリロジー)

決闘の不在者たち

完全な創作として構想する三部作の大河小説。街頭の私闘から生じた三つの変死事件を軸に、手を下した張本人と、その傍らにただ佇んでいた「同伴者」たちの倫理的境界を問う。第一部では証言録を筆写する法廷の書記見習いの女、第二部・第三部ではその覚書を受け継いだ娘と孫娘の視点を通じ、同じ一つの挙措が、証人の立場や時代の変遷によっていかにその意味を変容させてゆくかを浮き彫りにする。記憶の変遷と法解釈の綾を描き出す歴史巨編。

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歴史的典拠と文学的再構成について

モウアン卿の裁判は、リチャード・ヒルが犯した殺人に対する幇助・共謀の有無を巡って争われた。貴族院の評決は、現場への臨場および殺意の共有という法理に基づいて下され、無罪六十九票、有罪十四票をもって卿は放免された。なお、本史料にはその後に及ぶヒルの司法的処分についての追記は含まれていない。

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