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Maison BeaulieuMAISON BEAULIEUAB ÉDITIONS · フランス料理と欧州歴史記録の出版館
裁判とスキャンダル · フランス(ディジョン)

代言人事務所前の凶弾

一八八六年十一月、ディジョン。祖父を伴い代言人の事務所を出たモラン伯爵夫人の前に夫が立ち塞がり、二発の銃弾を放った。審理の過程で露わになったのは、破綻した政略結婚、度重なる脅迫、持参金の返還請求、そして醜悪な中傷合戦であった。陪審は妻への計画的謀殺未遂と祖父への傷害を峻別したうえで、酌量減軽を認めることとなる。

一八八六年十一月五日、ディジョン。モラン伯爵夫人は祖父ボワファンを伴い、代言人の事務所を後にした。路上には短銃を手にした夫が待ち構えていた。男は妻マルタに向けて二度引き金を引いた。咄嗟に身をかがめた夫人は難を逃れたものの、身を挺して庇おうとした祖父が胸に被弾した。後の公判でボワファンが証言したところによれば、一発目ののち伯爵を取り押さえようと踏み出したところ、二発目の銃弾に倒れたという。伯爵はその場で直ちに捕縛された。凶行そのものはほんの数秒の出来事にすぎなかったが、その背後にある暗澹たる経緯を解き明かすには、双方が互いの責を鳴らし合うに至った婚姻の原点にまで遡らねばならなかった。

ロジェ・ド・モラン伯爵が司法の場に引き出されたのは、これが初めてではなかった。事件の前年、男は高額な謝礼と引き換えに爵位や官職を周旋すると謳うビュレ・スーブリー商会なる業者に接触していた。かつて辞職した郡長代理の職へ復帰せんとしてのことである。業者は周旋の目処が立たぬと知りながら運動費の名目で一万七千フランを巻き上げていた。やがて主幹らが詐欺罪で追及された折、伯爵は欺瞞と知りつつ好奇心から支払ったにすぎぬと弁解した。近世の裁判記録『新ピタヴァル』はこの一件を前歴として採録しているが、ディジョンで裁かれることとなる凶行の謀議を直接裏付けるものではなかった。

一八八四年、伯爵はパリの富裕な薬剤師の娘、マルタ・シャントーを娶った。持参金は三十万フランとされ、さらに新婦の父からの年金支給も約定されていた。ディジョン近郊にある居城テュルセー城には重い抵当権が設定されており、資産家の娘との縁組は家格と所領を保全するための命綱であった。婚礼は豪奢を極めたが、そのわずか数週間後には、すでに両人の別居生活が始まっていたのである。

法廷で語られた結婚生活の様相は、双方で真っ向から食い違った。伯爵は妻が夫婦の義務を拒絶したと難じ、その交友関係をめぐって種々の邪推を書き連ねたが、裁判所はこれを慎重に見極めた。これに対しマルタは、夫の放埓な飲酒と家庭内暴力、さらには意に染まぬ場所へ連れ回された事実を訴え出た。親族や使用人らも暴行の現場を証言した一方、伯爵側の知己らは男の寛厚さを称賛し、不身持ちの風聞を否定した。十九世紀の法廷記録は弁論の苛烈な語彙をそのまま写し取ることが多い。だが、いかなる夫婦の諍いであれ、白昼の凶行を正当化する理由にはなり得ない。

実家へ身を寄せたマルタは司法に救いを求めた。やがて仮の別居が認められ、伯爵には扶養料の支払いが命じられるとともに、持参金の権利保全のため城館内の財産に封印が施された。先祖伝来の城を冒涜されたとして憤激した伯爵は、幾度となく復縁を迫ったが、夫人は法的手続きを取り下げなかった。並行して男は夫人の行状を恥ずべきものとして公然と中傷した。刑事公判において裁判長は、身元調査の結果そうした誹謗はことごとく虚偽と判明したと説示し、夫人の知人らもその貞節と品行の正しさを異口同音に裏付けた。離婚訴訟と短銃発砲事件の審理は別個のものであったが、法廷としても夫人に対して加えられていた脅迫の数々を軽視するわけにはいかなかった。

ディジョンにおける両者の遭遇は、予期せぬ偶然から生じた。事件の前日、マルタは代言人と協議すべく祖父ボワファンを伴って街に入り、伯爵もまた自らの代言人に会うため同地を訪れていた。奇しくも両代言人の事務所は通りを挟んで向かい合っていたのである。事情を察知した宿の主人は、館内での騒乱を恐れ、双方が同じ街に滞在している事実を伏せていた。十一月五日の朝、マルタが事務所を訪れた際、伯爵は表に停められた馬車に目を留めた。御者に問いただして妻の来訪を知るや、男はその場に立ち塞がり、姿を現すのを待ち伏せたのである。

証言によれば、伯爵は行く手を遮り、係争の行方を詰問したという。ボワファンが引き離そうとした瞬間、伯爵は獲物を取り出し、二発の銃弾を放った。マルタが身をかがめて辛うじて直撃を免れた一方、祖父が弾丸を浴びた。老人はその場に崩れ落ち、病院へ担ぎ込まれた。傷は深く、一弾は体内に留まったままであった。伯爵は駆けつけた警吏によって現行犯逮捕された。居合わせた者の一人は、伯爵が「妻を殺すつもりはなかった」と口走ったと証言したが、警官はその言葉を確認していない。当の男は、銃口を逸らした拍子に二発目が暴発したのだと強弁した。

公判廷において、伯爵は待ち伏せの事実は認めたものの、殺意については断固として否認した。夫人の視線に挑発され、無分別にも懐へ手を伸ばしたまでで、狙いを定めて撃ったわけではないと弁じ立てた。しかし、短銃の鑑定人はこの主張を一蹴した。構造上、引き金を強く引き絞らねば連射は不可能であると鑑定されたのである。ボワファンは、一発目の銃声を聞いて義理の孫の武器を奪おうと前に踏み出したところを、二発目に撃たれたと克明に証言した。伯爵夫人もまた同様の瞬間を述懐したが、事務所の建物内へ逃げ込んだ後の出来事については詳らかにし得なかった。

弁護側は、伯爵の精神的窮迫、婚姻生活の破綻、そして妻の出奔を情状として挙げ、発砲は予期せぬ暴発であり、ボワファンの負傷は偶発的な事故であったと主張した。また、シャントー家側が申し立てた数々の挿話にも反論を試みた。これに対し検察官は、従前の脅迫、凶器の携行、事務所前での待ち伏せ、そして鑑定人の所見を突き合わせ、計画性を立証していった。マルタの代理人は、夫人が出廷したのは損害賠償のみならず、傷つけられた名誉を回復せんがためであると陳述した。法廷で裁かれるべきは夫婦関係の破綻ではなく、発砲の瞬間に宿っていた殺意の有無にほかならなかった。

陪審は、妻に対する予謀に基づく謀殺未遂の罪につき伯爵を有罪と断じたが、ボワファンに対する確定的殺意までは認めなかった。そして情状酌量を付添した。裁判所は伯爵に対し重労働十年を言い渡し、原告への賠償金は象徴的な一フランに留め、財産上の紛争解決は民事の離婚手続きに委ねることとした。その後、ジュール・グレヴィ大統領の恩赦により刑期は禁錮七年に減軽された。明けて一八八七年四月二十一日、民事裁判所は夫の暴力と侮辱を認め、有責配偶者たる夫側の責任による離婚を宣告した。夫人に対して投げつけられた数々の中傷は、何ひとつ立証されなかった。

伯爵は門地と負債の重圧を、妻の人生を支配するための権力へと転換しようと図ったが、その企図は水泡に帰した。判決は法廷で交わされたすべての言葉に真実の判を押したわけではないが、動かしがたい一線を画した。陪審はマルタに向けられた害意とボワファンが負った創傷とを厳格に峻別し、激情や過失の弁解を退けて計画的犯行と断じたのである。破綻した婚姻は民事法廷によって解体され、放たれた凶弾は刑事裁判によって断罪された。二つの手続きの狭間に立ち尽くしていたのは、夫から復縁を強要され、醜聞によって口を塞がれかけ、最後には代言人の門前で命を狙われるに至った一人の若き女の姿であった。

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中篇小説(ノヴェラ)

事務所の扉陰にて

架空の地方都市を舞台にした独立中編。夫との別居を認めさせ、所領への財産封印を勝ち取った若き妻。彼女が代言人との協議を終えて表へ出たその時、短銃を握りしめた夫が路傍に立ち塞がる。祖母が機転を利かせて扉の奥へと引き戻すなか、かつて一族が伏せていた過去の脅迫を法廷で証言すべきか否か、一人の目撃者が苦悩する。女性の身の安全と計画的犯意の立証をめぐる緊迫の法廷劇。

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長篇小説(ロマン)

封印された持参金

零落した名門の跡取りが居城を維持せんがため、富裕な薬剤師の令嬢と婚姻を結ぶ。だが破綻は早く、別居と持参金の返還をめぐる争いへと発展する。代言人事務所の前で起きた凶行により妻の祖父が重傷を負うなか、一人の書記官が婚礼前に土地登記簿が不審に書き換えられていた事実を突き止める。民事手続き、一族の相克、そして凶弾の記憶が交錯するなか、婚姻の軛を脱して己の生を取り戻す女性の闘いを描く長編小説。

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大河三部作(トリロジー)

争われし遺産

全三巻からなる独立連作長編。架空の三つの家系を舞台に、持参金という名の手付金が引き起こす婚姻の売買、別居の口実、そして刑事事件の顛末を描く。第一巻では亡き夫の所領を守るため法廷に立つ未亡人、第二巻では公証人役場の前で起きた発砲事件の真相を追う公証人、第三巻では風聞と証拠の峻別に苦悶する一人の女性陪審員の姿を追う。財産の継承と個人の尊厳を問う重厚な三部作。

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歴史的典拠と文学的再構成について

本編の基となった記録は、夫側の告発、妻および親族の陳述、目撃証言、銃器鑑定、検察官の求刑論告を網羅している。原資料の筆者は時に道徳的偏見を交え、扇情的な細部を書き連ねているが、本稿ではそれらを排し、出所を明確にした叙述に留めた。刑事判決はマルタに対する予謀に基づく謀殺未遂を認めた一方、ボワファンに対する殺意は否定し、情状酌量を認めている。民事における婚姻解消と妻に対する中傷の退けについても、別個の審理記録として整理されている。

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