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Maison BeaulieuMAISON BEAULIEUAB ÉDITIONS · フランス料理と欧州歴史記録の出版館
警察と暗黒街 · フランス

旅立たざりし農夫

雇い人のダンヴェールは、ドナ夫妻ならピエールラットへ旅立ったと平然と言い放った。だが農場で行われていた異様な計略を目撃した者が、すでに村長のもとへ急を告げに走っていたのである。

ラ・パリュ村の村長が野守を伴ってその農場へ足を踏み入れたとき、レミ・ダンヴェールは畑に出ていた。野良仕事に精を出しているのか、あるいはその場がいつもと変わらぬ佇まいに見えるよう、巧妙に取り繕っていたのか。主夫婦はどうした、との問いに、ピエールラットへ向かったと男は応じた。かねてドナ夫妻が当地へ移り住むことを考えていたという、紛れもない事実を織り交ぜた偽りであった。凶行の主にとっては、予定されていた旅立ちの日取りを幾日か前倒しにするだけで事足りたのである。近隣の者らもその計画は耳にしていたゆえ、すでに公然となっていた話をなぞることで、いかにももっともらしい響きを帯びるはずであった。だが、訊問に訪れた二人の男は、とある目撃者がその屋敷で目にした異様な光景をすでに聞き及んでいた。彼らはもはや、夫妻の行方だけを尋ねに来たのではなかった。

事件が起きたのは、一九〇八年一月末から二月へかけての境、ヴォクリューズ県でのことである。ダンヴェールはこの農家に一九〇七年五月から雇われていた。起居を共にした数箇月のあいだ、夫婦がこの男を即座に暇を出すような理由は特段見当たらなかったものとみえる。のちに三面記事は、素性を洗うこともせず、身元も確かめず、警戒を怠ったと、夫妻の不用心を容赦なく責め立てた。されど、事ののちから下される斯かる安易な批難は退けねばなるまい。自らが手に掛けられる事態を予見することなど、犠牲となった者らに課せられた務めではあるまい。彼らは働く手を求めて一人の男を雇い入れ、日々その勤めぶりを目の当たりにしていたにすぎないのだから。

もとより一家の残した記憶など今に伝わらぬ以上、その睦まじい語らいを勝手に捏造することは慎まねばならぬが、農家においてそれほどの月日を共に過ごすことが何を意味するかは想像に難くない。雇い人は主筋の起居の時間、出入りの道筋、細かな癖のすべてを知悉する。胸の内に温める企図を耳にし、その支度を見届け、時には手元にまとまった金子のあることすら察知する。この近しさこそが日々の労役には不可欠なものであった。ドナ夫妻の家にあっては、まさにその親密さが、ダンヴェールに凶行の機縁を与えることとなった。当時の絵入雑誌『ロエイユ・ド・ラ・ポリス』が伝えるところによれば、彼は一月末、主筋がまとまった金を工面したことを聞き知り、それを奪い取るべく二人を亡き者にせんと決意したという。

一月三十一日から二月元日にかけての夜、男は猟銃を手にした。まず農夫が撃たれ、次いでその妻が斃れた。当時の調書を欠く今日、屋敷のどの場所で二人が倒れ、最初の一発から次の一発までにいかなる身の動きがあったのか、克明に辿る手立てはない。挿絵入り新聞が一つの情景を描いてはいるが、それは報道のために誂えられた図絵にすぎず、現場を写し取った写真ではない。しかしながら、告発の根幹は揺るぎなく明瞭である。一人の奉公人が、銃をもって主夫婦の命を奪い、財貨を強奪せんとし、その死を旅立ちという虚飾の陰に隠蔽しようとしたのである。

死体を覆い隠すには、骨の折れる力仕事が伴う。ダンヴェールは二つの遺骸を縛り、それぞれ麻袋へ詰め、運び出す算段を整えた。同誌によれば、その目論見はローヌの濁流へ投げ捨てることにあったという。ピエールラットへ発ったという作り話が人目を欺き、川の流れがその肉体を永遠に遠ざける――かくて二人の不在には、辻褄の合う説明が与えられるはずであった。この嘘が、かつて実在した計画に依拠していた点は見過ごせない。思いも寄らぬ突然の失踪であれば怪しまれたであろうが、これならば以前の世間話を盾に、しばらくは言い逃れが立つ。犠牲者らが抱いていたごくありふれた日常の望みすらも、彼らをこの世から消し去るための狡猾な手管として利用されたのである。

しかし、その陰惨な準備のさまを目撃した者がいた。絵解きの文面によれば、思いがけずその場を踏み止まった目撃者は脅迫を受け、やがて村長へ通報することを決意したとされる。その者の素姓や、事の次第をつぶさに記すには、管見に入った資料の記述はいささか心もとない。されど、その告発がもたらした結果は明瞭である。村長は野守を引き連れて農場へ急行した。この簡素極まりない歩み一つが、男の企図を水泡に帰せしめたのである。鑑識の手が入るよりも早く、重罪院での審理や新聞の扇情的な見出しが躍るよりも先に、己の眼にした光景を胸の内に封じ込めず、言葉にした名もなき一個人が存在したのだ。

畑の中で詰問を受けたダンヴェールは、頑なに旅立ちの筋書きを主張し続けた。しかし、残された遺体と届けられた急報の前に、もはや言い逃れは通じなかった。男はその場で縛についた。これより事件は、片田舎の噂話の域を脱し、司法の手続きへと引き渡されることとなる。あらかじめ触れ回られていた旅立ち、夫妻の最後の数日間、男の物欲を刺激した金子、兇器、そして遺体を運び出そうとした痕跡――司法はこれら一切の符合を確かめねばならなかった。民衆向けの通俗誌は、刑罰の執行を急ぐあまり、捜査の過程を足早に駆け抜けてしまう。だが我らは、その空白を架空の尋問や、筋書きの都合に合わせた偽りの告白録で埋める愚を犯してはならない。

ヴォクリューズ重罪院は死刑を言い渡した。新聞各紙は、この若者を生まれながらの犯罪者として書き立て、その実父の前科をことさらに引き合いに出した。血筋を口実にして個別の犯行の解明を放棄する短絡がそこにある。ダンヴェール自身が背負っていたとされる過去の前科、軍隊遍歴、各地を流れた足取りなどは記録に値しようが、親の咎は子の罪を何ら立証するものではない。本稿の立場からすれば、農場で犯された罪業そのものだけで事件の深刻さを物語るに十分であり、そこに生来の犯罪者などという遺伝の理屈を接ぎ木する必要はあるまい。

処刑は一九〇九年一月二十六日、カルパントラにおいて執り行われることとなった。その間に、事件は世間の耳目を集める見世物へと変貌を遂げていた。謝肉祭の季節が間近に迫っていたことが、新聞の格好の煽り文句となった。仮装した若者らが獄舎の周囲に群がり、不気味な挽歌が高唱され、群衆は首実検を求めて喚き立てた。『ロエイユ・ド・ラ・ポリス』はこの夜の情景を劇的な台詞と演出をもって活写しているが、それを一字一句違わぬ真実と信じ込むのは軽率に失しよう。とはいえ、のちに『オークランド・スター』紙に掲載された通信記事もまた、獄舎の周りに人々が押し寄せ、異議の声を上げ、厳重な警戒が敷かれていた事実を裏付けている。

断頭台はダンギャンベール広場にしつらえられた。兵兵が辺りを固め、一般の立ち入りは固く制限された。群衆はこの視界の遮断に対して激しい不満を漏らした。この抗議に滲む冷酷さを、罪人の動向ばかりに目を奪われて見落としてはならない。見物人らの一部にとって、公開の刑罰とは誰もが享受すべき当然の娯楽でなければならなかったのである。ドナ夫妻はある夜、人知れず農場で命を奪われた。そして数箇月ののち、その死は、見知らぬ他人が首を刎ねられる瞬間を特等席で見届けようと人々が押し合いへし合いする、狂乱の夜の口実へと成り果てていた。

刑場の露と消える刹那、ダンヴェールがいかなる態度を見せたかについては、記録により言動が分かれている。あるものは土壇場で取り戻した剛胆さを称え、別のものは機械の前まで引きず立てるのに手を焼いたと記す。安易な一方の図式に飛びつくことなく、我らはその食い違いをそのまま残しておくこととしたい。露命を散らす間際の人間など、わずか数秒の観察者の眼によって幾通りにでも描かれ得るものだからである。その一月の朝、判決は執行された。されど、あの日流された犠牲者の血の痛ましさが詳らかになるわけでもなく、法官らの冷徹な職分が前夜の狂騒の歌声と交わることも決してなかった。

この事件において最も背筋を凍らせるのは、畑の中で男が返したあの平然たる一言にほかなるまい。ダンヴェールは、誰もが納得し得る不在、誰の耳にも疑いなく響くはずの旅立ち、そして懸念が本格的な捜索へと変わるまでに稼げるであろう時間の猶予を、完璧に当て込んでいた。目撃者の一言が、その目論見を打ち砕いたのだ。村長へもたらされたその声のゆえに、ドナ夫妻は「旅に出た」という冷酷な虚構の中に置き去りにされずに済んだのである。農夫は旅立ってなどいなかった。その妻もまた同じであった。雇い人が何食わぬ顔で鋤を振るっていたその土の足元から、人々は二人の亡骸を掘り起こさねばならなかったのである。

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この実在事件の記録をお読みいただきありがとうございます。本事件をもとに3つの小説企画(中篇・長篇・三部作)を構想しています。あなたが最も読みたい作品にぜひご投票ください。

中篇小説(ノヴェラ)

村長に通報せし男

犯人からの凶悪な脅迫に怯えつつも、隣人夫妻が農場を離れるはずがないという確信との狭間で葛藤する、名もなき目撃者の姿を描く中編小説。

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長篇小説(ロマン)

ピエールラットへの旅路

かつて語られた引越しの計画がいつしか失踪の隠れ蓑と化し、その不自然な旅立ちに頑として疑念を抱き続ける村人たちの姿を追う、重厚な農村サスペンス長編。

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大河三部作(トリロジー)

谷の消え去りし者たち

ありふれた日常に潜む失踪劇と虚飾の綻びに立ち向かう、代々の野守(ガルド・シャンペートル)一族の足跡を丹念に辿る三部作の大河小説。

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歴史的典拠と文学的再構成について

当時の絵入雑誌を入手し、凶行および処刑に関する記述と絵解きを精査した。処刑当夜の情勢については『オークランド・スター』紙所収の現地通信を参照している。本稿では、生来の犯罪者とする宿命論や、新聞記者によって捏造された会話の類は退けた。また、目撃者の詳細な身元や裁判記録の欠落部分を創作で補うことを避け、断頭台の前における死刑囚の最期の態度に関する証言の不一致も、そのまま記録として残している。

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