MAISON BEAULIEUAB ÉDITIONS · CUISINE & LETTRES「ランバル公妃の獄房。」『ヨーロッパの獄舎』第IV巻
マレ地区の凍てつく回廊、王妃の至純の友が永遠の潜り戸をくぐり抜けた戦慄の夜。
低く垂れ込めたパリの湿屈な空の下、サンタントワーヌ街とロワ・ド・シシル街が交わる一角に、通りすがる者が名を聞くだけで青ざめる民刑の要塞がそそり立っていた。その名をラ・フォルスという。誇り高きコーモン・ラ・フォルス公爵邸の遺構の上に築かれたこの牢獄は、ルイ十六世の治世に大規模な改築が施され、無一文の債務者や掟破りの役者、市井の掏摸たちを際限なく呑み込んできた。しかし、頑丈な石灰岩の厚壁の奥底には、王権の暗部としてさらに陰惨な汚水溜が継ぎ足されていた。公娼や容疑の目を向けられた女たちを押し込める別棟、「ラ・プティット=フォルス」である。そこにはサン=ベルナール中庭やブシュリー(屠殺場)中庭といった、脂ぎった石畳の狭隘な庭が迷路のように入り乱れ、鉄の棘を植え込んだ威圧的な格子扉によって外界から厳重に遮断されていた。1792年9月第1週、饐えた藁の悪臭も、いまや凝固した血の臭気を覆い隠すことはできなかった。パリ全市が狂乱の鼓動を打ち鳴らし、非常を告げる早鐘(トクサン)が絶え間なき喘鳴のように響き渡る。城内の逆徒による陰謀を信じ込んだ武装市民らは、斧や錆びた槍をひっさげ、怒濤のごとく監獄群へと押し寄せていた。
看守らは、身代金と引き換えに落ちぶれた貴族へ新しい藁束やアルジャントゥイユの地酒を恵んでやるような小金稼ぎに慣れきっていたが、いまや革の前掛けの上から鍵束を固く握りしめ、青息吐息で慄えている。堂々たる閂(かんぬき)も、もはや誰の命をも保証しない。書記室では、羊皮装の受刑簿が蠅のたかるままに積み上げられ、紫のインキと獣脂の染みで無残に汚れていた。敷石を打つ無数の鋲靴の地響きと、喉を引き裂くような罵声が街路から地鳴りのように湧き上がってくる。アベイ監獄で虐殺が始まり、シャトレ座の地下でも首が刎ねられている――そしていま、その血煙を上げた奔流が、ここラ・フォルスへと雪崩れ込んできたのである。
プティット=フォルスの二階、粗末なガラスの底で蝋燭の芯が心細げに揺れていた。部屋の内装は骨ばかりに殺風景である。革帯を張った簡素な寝台がひとつ、藁張りの椅子、象牙の磔刑像。そこにひとり身を潜め、祈りを捧げる貴婦人がいた。マリー・テレーズ・ルイーズ・ド・サヴォワ=カリニャン――ランバル公の未亡人にして、マリー・アントワネットがもっとも心を許した無二の腹心である。数週間前、タンプル塔の天守閣から強引に引き離された公妃は、英国への華やかな亡命の誘いを退け、主君たちの受難を共にする道を選んだのであった。身に纏うのは、いまだかすかに気品をとどめる擦り切れた衣服――薄紫の小花を散らした白絹のドレスに、灰色の髪を包む薄絹のボンネット帽であった。
「奥方様、お立ちください、階下へ降りるのです! やつらが独房をひとつひとつこじ開けております!」
鉄枠の覗き窓から囁きかけてきたのは、恐怖に声を引き裂かれた下役看守であった。この夜は、息の詰まる責め苦そのものであった。窓の格子からは、街路の陰惨極まる怒号が絶え間なく這い上がってきた。「サ・イラ」の狂った合唱に混じって、助けを乞う悲鳴が響き、それもサーベルの一閃によって断ち切られる。公妃は涙を流さなかった。大理石のように白くほっそりとしたその手で、時祷書を強く抱きしめている。義父であるパンティエーヴル公爵が大金を投じ、この虐殺の手から逃れさせようと、息のかかった国民衛兵二名を闇に忍ばせていることは知っていた。しかし、硝石の滲む回廊の奥底から、石畳を擦る抜き身の刀の不吉な擦過音が響いてくる。首斬りどもがついに第一の落とし格子を突破したのだ。
9月3日の朝6時、独房の鉄扉が乱暴に引き開けられた。硝煙に顔を黒く煤けさせ、剥き出しの腕を鮮血に染めた二人の男が押し入ってくる。「さあ、出ろ! 人民がお前の声を聞きたがっている!」公妃はよろめいたが、気丈に背筋を伸ばした。この夜叉のような凶徒に挟まれ、彼女は螺旋階段を降りていく。即席の屠殺場から立ち上る生温かい蒸気に満ちた濡れ階段で、足元はすんでのところで滑りそうになった。彼女は書記室の前広間へと引きずり出された。
安酒の徳利、吸い殻の散らばる壊れたパイプ、そして開かれた監獄簿が雑然と積まれた白木の机の奥に、血に汚れた三色旗の記章帯を締めた二人の監察官が陣取っていた。その一人が、興奮に震える手で受刑者名簿をめくる。姓名、通称、身分。フォーブールの職人やイノサン市場の肉屋からなる即席の陪審員たちは、酩酊と疲労で濁った眼差しを向け、押し黙って煙草を燻らせていた。混迷のただ中で行われる取り調べは、まるで機械的な事務処理のように短く、慌ただしかった。
— 名は?
— マリー・テレーズ・ルイーズ・ド・サヴォワ、ランバル公妃。
— 身分は?
— 王妃陛下の家政総監。
— 宮廷の陰謀について知るところはあったか?
— 仮に陰謀と呼ぶべきものがあったといたしましても、私には存ぜぬことでございます。
この即席法廷の長官が身を乗り出し、充血した目で囚人を射すくめた。
— ならば自由と平等を誓え! 国王と王妃への憎悪を誓え!
公妃の身躯が微かに震えた。だがその面持ちは、かつてヴェルサイユの宮廷で見せたがごとき高貴さを失わなかった。
— 前者の誓いであれば、喜んで立てましょう。されど後者は、とても誓うことはできません。我が心に、そのような思いは一片たりともございませぬゆえ。
カルマニョールを纏った男たちのあいだから、ざわめきが湧き起こった。市参事会員の一人が、たまらず耳元で低く囁いた。「おい、誓うんだ、愚かな女め! 誓わねば命はないぞ!」しかし公妃は、静かに首を横に振った。すると長官は、重々しい手つきで受刑簿を叩くように閉じ、ラ・フォルスの屠殺人たちの隠語で「生きて帰さぬ死刑宣告」を意味する、あの放免の口上を宣告した。
「この婦人を釈放(拡げ)せよ。」
その不吉な一言が、石造りの丸天井に反響した。男二人が公妃の脇を抱え上げる。もはや元の房へ戻されることはない。ロワ・ド・シシル街の袋小路へと直結する、低く狭い潜り戸へと背中を押された。鉄扉を押し出された瞬間、累々たる屍臭が鼻腔を突いた。路地は、身ぐるみを剥がされた無数の遺骸で埋め尽くされ、深紅の血糊が川となって流れる赤黒い石畳の上に、折り重なるように山を築いていた。
繻子(サテン)の靴が泥濘んだ土を踏んだ途端、一人の若い屠肉人が、背後から角材をその項(うなじ)めがけて振り下ろした。薄幸の公妃は短い呻き声を上げ、折り重なる犠牲者の屍の山の上へ崩れ落ちた。刹那、血に飢えた群狼が彼女に群がった。無数の槍が突き刺さり、サーベルが純白の絹を引き裂いてゆく。マレ地区の暗い路地において、ラ・フォルスはその歴史の上にもっとも禍々しく、拭い去ることのできぬ血塗られた一頁を刻みつけたのである。のちに、侮蔑を込めて粉を振られ、美しく結い直された公妃の首級は、槍の切っ先に掲げられてタンプル塔の窓辺へと見せしめに運ばれ、マリー・アントワネットに絶望の悲鳴を上げさせることとなる。
それから数十年が過ぎ、マレール街の開通に伴ってラ・フォルスの高い胸壁が解体用の槌で打ち砕かれたとき、忌まわしき潜り戸の敷石の下から、赤く錆びついた鉄輪と、誰のものとも知れぬ人骨が掘り起こされた。瓦礫のあいだには、なおもあの公妃の追憶が漂っていた。恐怖政治の車輪に粉砕された、王政時代の監獄が遺した、永遠の幻影のごとくに。