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ピコーの足跡 · 第六行程 · 1848年

ポール=マルリー ― モンテ・クリスト城

円環は閉じ、物語は完結す

一八四八年の聖夜、いまも訪れることの叶う文豪デュマの実在の居城にて。オーギュスト・マケとヴィクトル・ユーゴーを前に、警察文庫の主プーシェが語り始めた「『モンテ・クリスト伯』に霊感を与えた真実の記録」。食卓を舞台に虚構と真実が対峙するとき、美食奇譚『十三人の食卓』が産声を上げ、正史の生々しき血脈が神話の虚飾に抗して甦る。

この行程の食卓

物語の晩餐

メゾン・ボーリューの愛蔵書
『十三人の食卓 ― 毒人参の円卓』
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📍イヴリーヌ県 · 物語の終章
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🕯️ 夜話クロニクル · 欧州20大伝説監獄&フランソワ・ピコー調査録夜の読書 · 約6分

聖夜の亡霊 ― ピコー、モンテ・クリストの館に闖入す

一八四八年の降誕祭。ポール=マルリーの豪奢極まる居城に、ニームの靴職人の血塗られた怨霊が現れ、希代の文豪に自らの生血の分け前を迫る。

イヴリーヌの雪華に煙る、創作者たちの祝宴

一八四八年の降誕祭の夜、ポール=マルリーの丘陵は純白の霜の経帷子に包まれていた。同名小説が生んだ莫大な印税にものを言わせ、この地に立ち現れたルネサンス風の狂熱の城「モンテ・クリスト城」。その大食堂では、燦然と煌めく水晶のシャンデリアが豪奢な銀器に眩い光を投げかけていた。刺繍入りの胴着に身を包んだ巨漢の食客、文壇の怪物アレクサンドル・デュマが、選りすぐりの客人を従えて主座に君臨している。その傍らには、主人の影法師として人知れず筋立てを組み立ててきた辣腕の共著者オーギュスト・マケが控え、さらにその隣には、六月蜂起の血塗られたバリケードの残像を今なお暗き双眸に宿したヴィクトル・ユーゴーが腰を下ろしていた。卓上では歓声が沸き返り、よく冷えたシャンパンを浴びるように呷りながら黒トリュフを詰めたキジのローストが切り分けられ、黄金と復讐に彩られた天上の執行人、エドモン・ダンテスの栄光が声高に寿がれていた。

だが、長テーブルの端には、異様な冷気を放つ空席が一つ残されていた。そこへ、パリ警視庁の埃まみれの書類庫から抜け出してきたかのような招かれざる客が座を占めた。ジャック・プーシェ――あるいは、その守護霊ともいうべき男である。折しも急使の手によって、純白のリネン敷きの卓上に置かれた一冊のおぞましい記録文書こそがその化身であった。洋梨とチーズが供されるデザートの合間、地下牢の鉄扉が重々しく閉ざされたかのような沈黙が、突如として一同を呑み込んだ。燦然たる伝説が、今や牢獄の生々しき真実の前に釈明を迫られようとしていた。

「アレクサンドル、貴殿はこの復讐を、大理石と黄金で織りなした華麗な詩篇へと仕立て上げられた。なればこそ、思い起こしていただかねばなりませぬ。その復讐が産声を上げたのは、打ち捨てられた城塞の汚泥と狂気、そして膿汁にまみれた闇の中であったということを」

フェネストレル要塞の地獄と、石壁の遺言状

古文書保管官の声が響いた。それはアルプスの寒風のごとく鋭利に研ぎ澄まされ、饗宴の酔気を一瞬にして吹き払い、列席の面々を一挙に四十年前の昔、一八〇七年の暗黒へと引きずり戻した。地中海の青波に洗われる風光明媚なイフ城など、そこには存在しない。真の受難者の名は、フランソワ・ピコーといった。ニームの貧しき靴職人であった男は、富裕な娘との婚礼を間近に控えていたが、居酒屋の片隅で四人の悪友が嫉妬に狂ってでっち上げた破廉恥な密告によって、突如として大英帝国のスパイという濡れ衣を着せられ、鉄の手枷を嵌められたのである。

いかなる裁判も経ず、囚人台帳に正式な記録すら残されぬまま、ピコーはピエモンテの万年氷に閉ざされた標高二千メートルの峻険、フェネストレル要塞の底へと呑み込まれた。七つの冬の間、この哀れな男の視界を遮っていたのは、三重に張り巡らされた鍛鉄の格子窓と、鼠の這い回る腐爛した藁屑、そしてナポレオン戦争の砲声ばかりであった。彼は爪を割り、生爪を剥がしながら冷たい生岩を掘り進んだ。脱獄のためではない。神からも見捨てられた隣室で息絶えようとしていたミラノの老高僧、トリ神父の牢へ通ずる穴を穿つためであった。

そこに博覧強記の科学や東洋の諸言語を授けてくれるファリア神父の姿はなかった。老神父はピコーの腕の中で息を引き取った。尿で溶いた煤を用いて擦り切れた法衣の切れ端に書き殴られた、オステールンゴの地下礼拝堂に眠る数百年来の莫大な財宝の秘密を託して。一八一四年、ナポレオンが失脚し、赤錆びた蝶番を軋ませて要塞の重扉がついに開かれたとき、外の世界の陽光を浴びた男は、もはや人間と呼べる姿を留めていなかった。総白髪と化し、純粋にして消し去ることのできぬ怨嗟の炎に焼き尽くされた、歩く死霊そのものであった。

パリの血祭――容赦なき兇刃

ポール=マルリーの食卓を囲むデュマの口元から、すでに哄笑は消え失せていた。マケは首を垂れ、白目錫の皿をじっと見つめていた。プーシェの語る真実が、モンテ・クリスト伯爵の纏う豪奢な絹の衣を情け容赦なく引き裂き、その下に蠢く醜悪な怪物の正体を暴き立てたからである。ジョゼフ・リュシェという偽名を名乗ってパリへ帰還したピコーには、罪人の子らを赦す東洋の貴人の雅量など微塵もなかった。その復讐は、華美な劇的演出など毛頭持ち合わせぬ、狂気じみた職人気質の、冷徹かつ機械的な解体劇にすぎなかったのだ。

パリの街筋角々で、ピコーは猛毒の蜘蛛さながらの執念をもってかつての密告者たちを追い詰めた。第一の共犯者ショーバールは、十月の霧深き夜、ポン・デザールの上で心臓を一突きにされ絶命した。凶器の短剣の柄には、焼きごてで「第一号」と刻まれていた。第二の男ジェルヴェは、我が家が放火によって灰燼に帰したのを見届けさせられた末、スペイン産ワインに混入された劇毒を煽って悶絶死した。その亡骸の胸元には、「第二号」と記された紙片が遺されていた。

そして最後に残されたのが、許すべからざる大逆の徒、かつて己の婚約者と名誉を根こそぎ奪い去った奸物ルーピアンであった。この男に対し、靴職人は悪魔的な惨忍さを惜しみなく注ぎ込んだ。脱獄囚のならず者を豪奢なイタリアの貴公子に仕立て上げてルーピアンの娘を誑かして凌辱させ、サントノレ通りの居酒屋を焼き払い、その息子を罪に陥れて徒刑囚の足枷を嵌め、男自身を路傍に這いつくばる乞食の境涯へと叩き落としたのである。次いで、プロスペルと名乗る給仕に身をやつしたピコーは、人気の絶えたテュイルリー宮殿の庭園の並木道へとルーピアンを誘い出し、屠殺用の短刀でその腹を無残に裂き裂いた。枯葉を鮮血に染め上げながらのたうち回る男の顔面に、ピコーは自らの真の名を唾と共に叩きつけたのである。

血塗られた勘定書き――永遠に続く十三人の晩餐

だが、この現世の冷酷な審判は、シェイクスピア流の悲劇の余韻などに構いはしなかった。ピコーには、麗しきギリシャの美姫を伴って優雅な余生を過ごすべき孤島など残されてはいなかった。かつての陰謀の秘密を知る五人目の男、アルーが血の匂いを嗅ぎつけていたのである。猜疑心を募らせていたアルーは、テュイルリーでの凶行を終えて立ち去ろうとする復讐鬼を待ち伏せ、棍棒で脳天を殴打すると、パンタン関門近くの悪臭漂う地下室へと引きずり込んだ。

いまや、復讐を司る審判者みずからが捕囚の身へと転落したのである。硝石の滲み出る地下の石柱に鎖で繋がれ、飢えに苛まれ、野良犬のように打ちのめされながらも、フランソワ・ピコーはイタリアの残余の黄金の隠し場所を決して白状しようとはしなかった。苛立ちを募らせたアルーは、ついにその頭蓋を石壁に叩きつけて叩き割り、英国へと高飛びした。この戦慄すべき真相が明かされたのは、それから幾年も後、ロンドンの治安判事が臨終の床にあるアルーの口から、恐るべき告解を耳にした時であった。

ポール=マルリーの館において、物語の余韻は深紅のビロードのカーテンの微かな衣擦れのなかに消えていった。冬の夜風がモンテ・クリスト城の尖頭窓を揺らし、庭園の池の小島に築かれたミニチュアの「イフ城」を激しく叩きつけていた。デュマは手元の杯を一息に飲み干すと、マケの顔を凝視した。

「オーギュストよ……我らは奴に紫紺の豪奢な衣を纏わせた。だが、あの呪わしきプーシェめが、奴の纏う経帷子の死臭を思い出させてくれおったな」

一八四八年のこの聖夜、卓上にはまさに十三人分の席が設えられていた。そして、十九世紀を代表する知の巨人たちが集う宴の只中、血に飢えた靴職人フランソワ・ピコーの無残なる幻影は、大文豪が誇る黄金の梁の下に自らの名を深く刻みつけたのである。伝説は確かにデュマのものとなった。だが、そこに流された血と復讐の生々しき痕跡は、未来永劫、歴史という冷酷なる記録の手の中に留まり続けるのだ。