
Le Cuisinier François (1651)
François Pierre de La Varenne
La table du Grand Siècle racontée dans les Lettres
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MAISON BEAULIEUAB ÉDITIONS · CUISINE & LETTRES世にセヴィニエ侯爵夫人として知られるマリー・ド・ラブタン=シャンタルは、みずから厨房に立ち鍋を振るった職人ではない。しかしながら、愛娘グリニャン伯爵夫人に宛てて遺された千数百通に及ぶ長大な書簡群は、十七世紀フランス、すなわち太陽王ルイ十四世の治世に咲き誇った「大世紀(グラン・シエクル)」の食卓を、いかなる公式の宮廷年代記よりも生々しく、匂い立つような臨場感をもって現代に伝えている。豪奢を極めた貴族邸の祝宴から、領地の静けさのなかで賞味された素朴な一皿に至るまで、夫人の怜悧な眼差しと才気煥発たる筆致は、食という文化の深奥を余すところなく捉えきっていた。
食の歴史において夫人が不朽の証人となった白眉は、1671年4月、シャンティイ城で繰り広げられた大元帥コンデ公主催の饗宴にまつわる記録である。国王ルイ十四世を迎えて三日三晩にわたり催されたその祝宴において、宴会総監督たるフランソワ・ヴァテルは、夜明けの帳が明けても届かぬ鮮魚の荷に絶望し、みずからの職人の誇りを守らんがために刃の上に倒れた。夫人は娘へ宛てた手紙に、胸に迫る緊迫感をもってこの悲壮なる幕切れを書き留めている――「重責はすべて彼一人の肩にかかっていた。魚が届かぬと知るや、彼は自室へ駆け戻り、扉に剣の柄を押し当てて己の胸を貫いたのだ」。料理人の名誉と過酷な運命を伝えるこの不朽の挿話は、彼女の筆なくしては歴史の闇に埋もれていたに相違ない。
夫人の手紙には、当時新奇な異国の嗜好品として宮廷社会を陶酔させたショコラ(チョコレート飲料)をめぐる狂熱が、移ろいゆく心情とともに克明に記されている。あるときは「ショコラこそは魂を慰める妙薬」と娘に熱心に薦めながらも、やがて過度の常用によって熱病に冒される貴族たちの姿を目の当たりにするや、「あれは甘言を弄する偽りの友、身を焦がす毒」と翻意する。また、宮廷を席巻したプティ・ポワ(若き緑のエンドウ豆)の異常な流行――王をはじめ貴族の高官たちが、夜半の密かな夜食に争って豆を貪り、消化不良の苦痛を訴えながらも手を止め得なかった滑稽な熱気――をも、痛烈な諧謔を交えて活写した。味覚が権力と威信の象徴であった時代の空気が、ここには見事に凝縮されている。
娘の嫁ぎ先であった南仏プロヴァンスのグリニャン城への旅は、パリの洗練された宮廷料理に親しんでいた夫人の舌に、地方の風土が育む豊饒なる恵みを知らしめる契機となった。露を帯びた無花果、陽光をいっぱいに吸い込んだメロン、黄金のオリーヴ油に浸された野菜、そして野山を駆けるジビエの濃厚な野趣。夫人は土地の滋味を称え、季節のめぐりとともに届く食材の息吹を詩情豊かに綴った。格式張った儀礼の膳にとどまらず、大地に根差した素朴な食の喜びに深く打たれた点に、真の美食家としての澄んだ感性がうかがえる。
マリー・ド・ラブタン=シャンタルの書簡は、ブリア=サヴァランやグリモ・ド・ラ・レニエールといった美食評論の巨頭たちが登場する遥か以前に、文学と食卓が結んだ稀有にして幸福な婚姻であった。立ちのぼる湯気、肉を焼き上げる芳ばしい脂の爆ぜる音、客人たちの囁き、そして厨房に生きる者たちの誇りと懊悩――そのすべてが、彼女の羽ペンの一筋によって永遠の命を与えられた。料理を創り出さずして食の頂点に名を留めたこの貴婦人は、言葉の力によって、フランス古典料理の揺籃期に最も美しい光背を授けたのである。
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